ウイロイドとは何か?一般的なウイルスとの具体的な構造の違いと人間の細胞や大腸菌とのゲノムサイズの違い
前回の記事で書いたように、D型肝炎ウイルスに代表されるようなサテライトウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、ウイルス学上の厳密な定義においては、
通常のウイルスとは異なる特徴や構造を持った不完全なウイルスであるといった意味において、サブウイルス粒子と呼ばれる一般的なウイルスとは異なるグループへと分類されることになるのですが、
こうしたサテライトウイルスと同様にサブウイルス粒子に分類されることになる植物や動物の細胞などに寄生して病原体としての働きを示す可能性のある様々な構造体の種類としては、
その他にも、ウイロイドやプリオンといった構造体の種類が挙げられることになります。
ウイロイドの語源と定義とは?人間の細胞とのゲノムサイズの違い
まず、
こうしたサテライトウイルスと同様にサブウイルス粒子に分類される二つの構造体の種類のうちの前者であるウイロイド(Viroid)とは、
“Virus”(ウイルス)という単語と、「~のような」「~状のもの」といった意味を表す“–oid”(オイド)という接尾辞が結びついてできた言葉であり、
宿主となる細胞に寄生して自らの遺伝子の複製を実行させることによって増殖していくというウイルスと同じような働きを持ちながら、ウイルスとは異なる構造を持った現在までに人類によってその存在が確認された病原体のなかでは最小の感染性病原体として位置づけられることになります。
そして、
こうしたウイロイドと呼ばれる構造体は、より具体的には、
200~400個程度の塩基数のゲノム(遺伝情報)によって形作られている短い環状の一本鎖RNAのみによって構成される植物細胞に対して感染性を示す病原体して定義されることになるのですが、
上述したウイロイドが持つ塩基数にして200~400個というゲノムサイズは、現在までに存在が確認されているなかでは最小のゲノムサイズにあたると考えられていて、
例えば、
人間の細胞一つ一つが持っている遺伝子のゲノムサイズは約31億塩基対であり、
大腸菌の場合でもだいたい46万塩基対の遺伝情報を持っていると考えられるので、
こうしたウイロイドが持つ200~400個という塩基数は、上述した人間の細胞あるいは大腸菌などの微生物におけるゲノムサイズと比べても、極めて少ないゲノムサイズであると考えられることになるのです。
一般的なウイルスとウイロイドにおける具体的な構造の違い
それでは、
こうしたウイロイドと呼ばれる構造体は、具体的にどのような点において、一般的なウイルスと異なる特徴を持っていると考えられるのか?ということについてですが、
それについては、
一般的なウイルスの構造は、自らの遺伝情報を記録するRNAやDNAといった核酸と呼ばれる構造体と、そうした核酸を取り囲んで保護しているカプシドと呼ばれるタンパク質の殻から構成されているのに対して、
ウイロイドの構造においては、一般的なウイルスの場合と同様に、自らの遺伝情報を記録する一本鎖の環状の形状をしたRNAと呼ばれる核酸を持っている一方で、そのRNAを取り囲む一般的なウイルスにおけるカプシドと呼ばれるタンパク質の殻にあたる部分は存在しない
といった点が挙げられることになります。
つまり、
インフルエンザウイルスやノロウイルスといった一般的なウイルスの場合には、RNAやDNAといった遺伝情報を担う核となる部分と、
そうした遺伝物質取り囲んで保護することによって自己と外界との境界を明確に区分するカプシドと呼ばれる外殻構造という二つの領域によってウイルス全体の構造が構成されているのに対して、
ウイロイドと呼ばれるサブウイルス粒子の種族においては、そうした通常のウイルスを構成する二つの領域のうちの後者である外殻構造は一切存在せずに、自らの遺伝情報を担うRNAが剥き出しの状態で存在していて、
むしろ、
そうした一本鎖の環状の形状をしたRNAが単独で宿主となる植物細胞への感染性を持ち、寄生した細胞に自らの遺伝子を複製させる働きを持つようになったものが、
こうしたウイロイドと呼ばれる構造体の正体であると考えられることになるのです。
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次回記事:ウイロイドに分類される代表的な病原体の種類と具体的な特徴とは?植物体の成長を阻害して作物の生産性を低下させる最小の病原体
前回記事:サテライトウイルスに分類される代表的なウイルスの種類と具体的な特徴とは?植物および動物や人間に感染する代表的な種類
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