抗菌薬のことを抗生物質と呼んでも間違いではない理由とは?合成ペニシリンは抗生物質と合成抗菌薬のどちらに分類されるのか
前回の記事で書いたように、抗生物質と抗菌薬と呼ばれる二つの薬剤の種類の分類のあり方を示す言葉自体の具体的な意味の違いとしては、
前者の抗生物質という言葉は、病原性をもつ細菌などの微生物の増殖や発育を阻害する物質のなかでも、特に、カビや放線菌といった微生物の働きによってつくられる薬剤のことを意味する言葉であるのに対して、
後者の抗菌薬という言葉は、病原性をもつ細菌などの微生物を殺したり増殖を抑止したりする作用を持つ薬剤全般のことを意味する言葉であり、こうした抗菌薬のうちには、厳密な意味における抗生物質の定義には含まれない完全に人工的な化学合成によってつくられた合成抗菌薬も含まれるといった点に、
こうした二つの言葉の言葉自体としての意味の違いがあると考えられることになるのですが、
その一方で、より実用的な意味においては、
こうした抗生物質と抗菌薬と呼ばれる二つの言葉に基づく薬剤の種類の分類のあり方の境界線は必ずしも明確ではないとも考えられることになります。
合成ペニシリンは抗生物質に分類することができるのか?
前回の記事でも書いたように、
抗生物質に分類される薬剤の代表格としては、まずは、世界で最初に発見された抗生物質でもある青カビの培養液から精製されたペニシリンの存在が挙げられることになりますが、
こうしたペニシリンと呼ばれる抗生物質は、その後、さらに化学的な研究が進められていくなかで、
通常の青カビの培養液から直接取り出すことができる天然ペニシリンのほかにも、
そうした青カビの培地に新たに人為的に原料を添加して青カビにおけるペニシリンの合成の仕方に変化を加えることによって新たにつくり出された生合成(せいごうせい)ペニシリンと呼ばれるペニシリン化合物や、
そうした天然ペニシリンや生合成ペニシリンの分子構造に対して直接手を加えて化学的な修飾を施すことによってつくり出された半合成ペニシリン、
さらには、
青カビといった微生物の働きを一切必要とせずに、一から人為的な化学的な合成の過程を積み重ねていくことによってつくり出された合成ペニシリンと呼ばれる新たなペニシリン化合物の種類までもが順を追っていく形で開発されていくことになります。
そして、実際、
ペニシリン系抗生物質として広く用いられているメチシリン、アンピシリン、カルベニシリン、チカルシリン、アゾシリン、メズロシリン、ピペラシリン、アモキシシリンといった薬剤の種類のうち、
最後に挙げたアモキシシリンと呼ばれるペニシリン化合物は、そうした合成ペニシリンに分類される薬剤として位置づけられることになります。
つまり、そういった意味では、
病原性をもつ細菌などの微生物の増殖や発育を阻害する物質のうち、カビや放線菌といった微生物の働きによってつくられる薬剤のことを意味するという抗生物質という言葉自体の厳密な定義に従うと、
こうしたアモキシシリンに代表されるような合成ペニシリンに分類されてしまう薬剤は、他のペニシリン化合物たちと比べても物理的な構造はほとんど同じような構造をしていて、薬剤としての効果も非常によく似通っているにもかかわらず、
それが微生物の働きを一切経ることなくつくり出される合成ペニシリンに分類されてしまう薬剤であるという理由から、厳密な意味においては抗生物質に分類することができないという結論が導き出されてしまうとも考えられることになるのです。
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以上のように、
こうした微生物の働きによってつくられる他の微生物の増殖や発育を阻害する物質としての抗生物質という言葉自体の厳密な定義に基づくと、
本来は、抗生物質の代表格であるはずのペニシリン系の薬剤が、実は、厳密な意味においては抗生物質と呼ぶことができないという少しおかしな事態が生じてしまうと考えられることになるのですが、
その一方で、
こうした合成ペニシリンに分類される薬剤であるアモキシシリンが主成分とされる医薬品の添付文書などにおいては、それが「ペニシリン系に属する抗生物質」であるといった記述がみられるように、
実際の医療現場においても、
同じペニシリン化合物に分類される薬剤のうち、合成ペニシリンにあたる薬剤の種類だけを除外して、それらの薬剤のことを抗生物質とは呼ばずに合成抗菌薬と呼ぶようにするといった言葉の厳密な使い分けのようなことは実際にはほとんど行われていないと考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
このように微生物の働きを一切経ることなくつくり出される合成ペニシリンに分類されるような薬剤のことも通常のペニシリン系の薬剤と同様に抗生物質と呼ぶという言葉の使い方が医療分野における実用的な表現として容認することができるとするならば、
逆に言えば、それと同様に、
そのほかの人間の手によって完全に人工的に合成された厳密な意味においては合成抗菌薬に分類される薬剤の種類についても、
それを抗生物質と呼んでしまうことも必ずしも間違いではないと考えられることになるのです。
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次回記事:抗菌と除菌と殺菌の違いとは?日常的な意味と医学的な意味における三つの言葉の定義の違いと具体例
前回記事:抗生物質と抗菌薬の違いとは?両者に分類される薬剤の代表的な種類と具体的な定義
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