放線菌とは何か?カビやキノコのような真菌類と細菌類の中間に位置する生物の種族である放線菌の具体的な特徴と代表的な種類
このシリーズの前回までの一連の記事のなかでは、カビや酵母やキノコといった真菌類、さらには、粘菌や細菌といった広義における菌類に分類される生物の種類について順番に取り上げてそれぞれの生物群における主要な特徴の違いなどについて考察してきましたが、
こうした菌類に分類される生物の種族についてさらに詳しく取り上げていくと、生物の種族自体の分類においては細菌類に分類される生物でありながらカビやキノコのような真菌類にも共通する特徴も持っている
放線菌(ほうせんきん)と呼ばれる生物の種族の存在についても取り上げていくことができると考えられることになります。
グラム陽性菌としての放線菌の特徴と「放線菌」という名称の由来
冒頭でも述べたように、
放線菌(Actinobacteria、アクチノバクテリア)とは、その名の通り、核膜を持たずに細胞内にむき出しの状態でDNAが存在する原核生物に分類される微生物である細菌(バクテリア)の一種として分類される生物の種族であり、
そうした細菌類のなかの分類においてはさらに、
細胞体の構造において外膜を持たずに、細胞全体が分厚い細胞壁によって覆われた構造をしているグラム陽性菌に分類される細菌類の一種として位置づけられることになります。
しかし、その一方で、
こうした放線菌と呼ばれる生物の種族には、通常の細菌には見られることのない特異的な特徴も数多く存在していて、
放線菌においては、通常の細菌において見られるような細胞分裂は通常の場合見られずに、カビやキノコのように菌糸と呼ばれる糸状の細胞構造を形成したうえで、
そうした空気中に伸ばした菌糸から胞子を飛ばすことによって生殖が行われていくことになります。
そして、
このように、まるでカビが増殖していくときと同じ姿のように、放射状に菌糸が伸びていくという特徴に由来して、
こうした細菌としては少し風変わりな特徴を持つ生物の種族に対して、「放線菌」という名がつけられることになったと考えられることになるのです。
放線菌の具体的な種類と病原体と抗生物質の原料としての位置づけ
そして、
こうした放線菌に分類される生物の代表的な種類としては、
例えば、
土壌や水中などに広く生息するロドコッカスやマイクロコッカスやフランキア、昆布のうまみ成分として有名なグルタミン酸を生産するグルタミン酸生産菌や、ヨーグルトなどの食品や整腸剤にも利用されるビフィズス菌などが代表的な種類として挙げられることになり、
その他にも病原性を持った放線菌の種族としては、
結核菌や、ハンセン病の原因となるらい菌(癩菌)、近年は予防接種の普及によってほとんど見られなくなったもののかつては高熱と激しい喉の痛みを引き起こし、心筋炎などの重篤な合併症を引き起こして患者を死に至らしめることもあることで恐れられたジフテリアの原因となるジフテリア菌などもこうした放線菌の一種に分類されることになります。
しかし、その一方で、
こうした放線菌の種類のなかには、病原体として人間の体を害するものとは反対に、抗生物質の原料となることによって病気の治療に役立ってくれるものもあり、
ストレプトマイシンやテトラサイクリン、エリスロマイシンやカナマイシン、さらには、多剤耐性菌に対する効果によってかつては最強の抗生物質としても挙げられていたバンコマイシンといった数多くの抗生物質が、
ストレプトミセスと呼ばれる種族を中心とする放線菌を原料として生成されていくことになります。
ちなみに、
世界で最初に発見された抗生物質であるペニシリンが青カビから生成されたように、もともと抗生物質の原料となる有機物質はカビに由来するものが多いと考えられることになるのですが、
そういった意味においても、
こうした放線菌と呼ばれる生物は、カビに代表されるような真菌類とも極めて近しい性質を持った生物の種族としても捉えることができると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
放線菌と呼ばれる生物の種族は、生物学上の分類においては、
核膜を持たずに細胞内にむき出しの状態でDNAが存在する原核生物に分類される微生物である細菌(バクテリア)の一種として分類される生物の種族であり、
より正確に言えば、グラム陽性菌と呼ばれる細胞全体が分厚い細胞壁によって覆われた構造をした細菌類の一種として位置づけられることになります。
しかし、その一方で、
放線菌は、カビやキノコのように菌糸と呼ばれる糸状の構造体を形成したうえでそこから胞子を飛ばすことによって生殖を行うほか、カビのように抗生物質の原料となる放線菌の種類も数多く存在するという点において、
こうした放線菌と呼ばれる生物の種族は、
カビやキノコのような真菌類と、乳酸菌や納豆菌のような細菌類の中間に位置する生物としても捉えることができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:抗生物質と抗菌薬の違いとは?両者に分類される薬剤の代表的な種類と具体的な定義
このシリーズの前回記事:菌類の分類のあり方のまとめと真菌・粘菌・細菌という三つの菌類の種族に分類される代表的な菌類の名前
前回記事:カントの道徳哲学を象徴する三つの名文とは?『実践理性批判』の全体像を語る二つの定式と一つの結びの言葉
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