光パンスペルミア説と岩石パンスペルミア説の違いとは?宇宙空間の超低温下と高線量の放射線下における生命体の生存可能性
前回の記事で書いたように、遠い宇宙の別の惑星系から飛来した微生物などの地球外の生命体のうちに人類を含む地球上の生命の起源を求めるパンスペルミア説は、
そうした惑星間の生命の伝播のパターンに応じて主に三通りのパターンへと分類されることになると考えられ、
そのなかでも、最も有力な学説としては彗星や小惑星などの岩石の内部に付着した微生物の芽胞などを介して偶発的な形で生命の伝播がなされていくというパターンが考えられことになるのですが、
こうした岩石を介して生命の伝播が進んでいく岩石パンスペルミア説に対して、光のエネルギーを介して生命の伝播が進んでいくとされる光パンスペルミア説と呼ばれる学説も挙げられることになります。
アレニウスが唱えた光パンスペルミア説と岩石パンスペルミア説の違い
光パンスペルミア説(Radiopanspermia)とは、1903年に、スウェーデンの物理学者であるスヴァンテ・アレニウス(Svante Arrhenius)によって唱えられたパンスペルミア説に関する学説であり、
惑星間における生命の伝播がlitho(石板、岩石)を介して行われるとする岩石パンスペルミア説(Lithopanspermia、リソパンスペルミア)に対して、
そうした生命の伝播が恒星から放出される光の放射圧(radiation pressure)すなわち電磁波のエネルギーを介して行われるという意味でこうした光パンスペルミア説(Radiopanspermia、レディオパンスペルミア)という言葉が用いられていると考えられることになります。
そして、
こうしたアレニウスらが提唱する光パンスペルミア説においては、隕石の衝突や惑星の崩壊といった何らかの事象によって宇宙空間へと放り出された微生物は、隕石などの岩石の内部に取り込まれていなくても、
そうした微生物自体が単体として宇宙空間に漂い、恒星から放出された電磁波のエネルギーの流れに乗って輸送されることによって別の惑星へと直接漂着することが可能であるとする主張が展開されていくことになるのです。
宇宙空間の超低温下と高線量の放射線下における生物の生存可能性
それでは、こうした20世紀の初頭に提唱された光パンスペルミア説における仮説は、現代の宇宙論においても理論的な面において実現が可能な仮説であるとみなされているのか?ということについてですが、
それについてはまず、前回の記事で取り上げたように、一部の細菌類がつくり上げる芽胞のような構造体においては、絶対零度に近い超低温下の環境においても一定期間の生存が可能であると考えられるため、
確かに、そうした微生物の一部は、温度面においては宇宙空間での生存が可能であると考えられることになります。
その一方で、
宇宙空間が生命にとって過酷な生存環境である大きな理由としては、もう一つ高線量の放射線の問題も挙げられることになり、
近年に至るまで、宇宙空間における放射線の高線量被ばくに耐えることができるような生命体はほとんど見つかっていなかったため、
隕石の内部におけるような岩盤や鉱物による放射線の遮蔽を受けることなしに微生物が単体で宇宙空間を漂流していくとする光パンスペルミア説の実現は現実においては無理があると考えられてきました。
しかし、
現在の生物学の知見においては、クマムシやデイノコッカス・ラディオデュランスといった特殊な微生物たちに代表されるように、
宇宙空間のような高線量の放射線を受ける状況下においても長期間生存可能な生命体の存在も次第に明らかにされてきているので、
そういった意味では、
こうした光パンスペルミア説における恒星から発せられる電磁波エネルギーを介した微生物の単体での惑星間移動といった学説も、
必ずしも荒唐無稽の空想上の話とは言い切れない現実の宇宙においても理論上は実現する可能性のある学説として捉え直していくこともできると考えられることになるのです。
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次回記事:『宇宙船ビーグル号の冒険』におけるイクストルとパンスペルミア説の関係、宇宙の終末を越えて生命を伝播する超生命体の存在
前回記事:パンスペルミア説における生命の伝播の三通りのパターンとは?微生物の芽胞による偶発的伝播と知的生命体による意図的伝播
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