『宇宙船ビーグル号の冒険』におけるイクストルとパンスペルミア説の関係、宇宙の終末を越えて生命を伝播する超生命体の存在
前回の記事で書いたように、現代の宇宙論において、人類を含む地球上の生命の起源を、遠い宇宙の別の惑星系から飛来した微生物などの地球外の生命体のうちに求めるパンスペルミア説と呼ばれる学説は、
そうした惑星間における生命の伝播が宇宙空間を飛来する様々な物体に付着した微生物の芽胞などを介して偶発的な形で行われていくことになるとする説と、そうした生命の伝播は地球外知的生命体の植民活動といった人為的な行為を通じて意図的に伝播されていくとする説、
さらには、彗星や隕石を介してそうした惑星間における生命の伝播が行われるとする岩石パンスペルミア説と、恒星から放出される光のエネルギーを利用することによってそうした生命の伝播がなされていくとする光パンスペルミア説といった様々な種類の学説へと細分化されていくことになると考えられることになります。
そして、こうした現代の宇宙論において登場するパンスペルミア説と呼ばれる考え方は、学問の分野だけではなく、小説や映画などの題材などとしても幅広く用いられていると考えられ、
古今東西のSF作品の中などにおいても、こうしたパンスペルミア説と関連する様々なアイディアを見いだしていくことができると考えられることになります。
『宇宙船ビーグル号の冒険』に登場する超生命体イクストルの存在
例えば、
カナダ出身の小説家であるヴァン・ヴォークト(Van Vogt)によって書かれた1950年に発行されたSF小説である『宇宙船ビーグル号の冒険』(The Voyage of the Space Beagle)では、
その第三部における新たな未知の生命体の遭遇において、イクストル(Ixtl)と呼ばれる驚異の生命力を持った太古の生命体との邂逅の場面が描かれていくことになり、
その冒頭部分においては、以下のような形でこうしたイクストルと呼ばれる存在についての描写がなされていくことになります。
「イクストルの故郷、グロルの星では、同様にして大昔に、生命が泥の中から這い出てきたのだった。だが、宇宙を吹き飛ばす大爆発とともに、強大を誇ったイクストルの種族は滅び、自分はこの銀河系間の空間に投げ飛ばされてただよっているのだ。」
「彼は生き続ける――これが彼の悲劇なのだった。ほとんど不死身の身体は、徐々に弱ってゆくが、空間、時間、いつどこにでもみなぎっている光のエネルギーに支えられて、生きながらえているのである。」
(ヴァン・ヴォークト作『宇宙船ビーグル号の冒険』沼沢洽治訳、創元推理文庫、152ページ)
つまり、
こうしたヴァン・ヴォークトの『宇宙船ビーグル号の冒険』の物語の中では、
超新星爆発のような超高温と高線量の放射線下の過酷な環境においても生き残り、恒星から放出されている光エネルギーを利用することによって半永久的に自らの生命を保ち続けることができ、
宇宙の終わりにおいても、それが新たな宇宙を生み出すビッグ・バンへと通じているとするならば、そうした宇宙の終末の大爆発をも乗り越えて、新たに生まれた宇宙において、自らの生命を伝播していくことができる超生命体の存在が描かれていると考えられることになるのです。
超生命体イクストルと光パンスペルミア説との関係
そして、前回の記事でも書いたように、
パンスペルミア説の一種にあたる1903年にスウェーデンの物理学者であるスヴァンテ・アレニウス(Svante Arrhenius)によって唱えられた光パンスペルミア説(Radiopanspermia)においては、
恒星から放出される光の放射圧を利用することによって、微生物が単体で惑星間の移動を行っていくことができる可能性があるとする仮説理論が提唱されていくことになるのですが、
そういった意味では、
1950年にヴァン・ヴォークトによって書かれたSF小説である『宇宙船ビーグル号の冒険』において登場する
恒星から放出されている光エネルギーを利用することによって半永久的に自らの生命を保ち続け、宇宙の終末と新たな始まりの大爆発を乗り越えてもなお自らな生命を新たな宇宙の新たなる惑星へと伝播していく能力をもった超生命体としてのイクストルの姿は、
こうした光パンスペルミア説における光のエネルギーを介した惑星間における生命の伝播といったイメージが、よりドラマチックな形で具現化されていくことによってつくり上げられていった存在として捉えることもできると考えられることになるのです。
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次回記事:『コドク・エクスペリメント』のデロンガにおける遠隔的な生命の伝播と光エネルギーを用いた新たなパンスペルミア説の可能性
前回記事:光パンスペルミア説と岩石パンスペルミア説の違いとは?宇宙空間の超低温下と高線量の放射線下における生命体の生存可能性
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