『コドク・エクスペリメント』のデロンガにおける遠隔的な生命の伝播と光エネルギーを用いた新たなパンスペルミア説の可能性

前回の記事で書いたように、宇宙船や隕石といった媒介手段を用いることなく、生命体自体が光エネルギーを利用することによって単体で宇宙空間を越えて別の惑星系へと自らの生命を伝播させていく可能性があるとする

光パンスペルミア説における惑星間の生命の伝播のイメージが興味深い形で具現化されているSF作品としては、

1950ヴァン・ヴォークトによって書かれたSF小説である『宇宙船ビーグル号の冒険』と、そこに登場するイクストルと呼ばれる超生命体の存在などが挙げられることになりますが、

こうしたパンスペルミア説におけるような宇宙空間を越えて自らの生命を伝播させていく生命体の存在が示されている作品の例は、現代のSF作品においても数多く見いだしていくことができると考えられることになります。

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『コドク・エクスペリメント』のデロンガにおける遠隔的な生命の伝播

例えば、

1999年から2001までに書かれた星野之宣による漫画作品である『コドク・エクスペリメント』においては、

惑星探査を行うために宇宙空間を航行していた小型の輸送艇に、宇宙空間を漂流していて仮死状態にあったデロンガと呼ばれる謎の生命体が運び込まれ、

その後、輸送艇内で覚醒した驚異の生命力と多様な攻撃能力を持つ生物兵器ともいえるデロンガと宇宙船の乗組員との間で互いの生き残りをかけた壮絶な戦いが繰り広げられていくことになるのですが、

このSF作品においては、その他にも興味深い点として、宇宙空間を越えた生命の伝播が、生命体の直接的な移動だけではなく、通信を介した自らの遺伝的情報の伝達という遠隔作用によっても行われていくことになるという点が挙げられることになり、

作品中では、こうしたデロンガが持つ興味深い性質については、特殊兵器の開発の責任者として輸送艦から離れた母艦の宇宙船の司令部に入っていたバグレス准将の言葉として、以下のような形で語られていくことになります。

「艦内にデロンガが増殖しているのを不思議に思っているだろう。あれは一種の光通信でDNA情報を送る能力を持っているらしい。」

相手の目から脳神経に直接情報を送り込み、異質の細胞を生産させる――きわめて急速に体内の細胞をコピー細胞へと作り換えていくんだ。ウイルスのようにだ!

(星野之宣『コドク・エクスペリメント』、幻冬舎コミックス漫画文庫、271ページ)

つまり、

こうした『コドク・エクスペリメント』において示されているデロンガと呼ばれる宇宙生命体が有する性質においては、

光エネルギーを介した遺伝情報の伝達という新たな手段によって、遠く離れた場所に位置する宇宙船や惑星にも自らの生命を遠隔的に伝播していくことができるという宇宙空間を越えた新たな生命の伝播の概念が提示されていると考えられることになるのです。

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光エネルギーや電磁波エネルギーを用いた遠隔的な生命の伝播という新たなパンスペルミア説の可能性

そして、

こうした『コドク・エクスペリメント』において描かれているデロンガの光エネルギーを介した自らの生命の情報の遠隔的な伝播といったアイディアからは、

新たなパンスペルミア説のパターンの発見へと通じるような一つの示唆を見いだしていくことができると考えられることになります。

つまり、

これまでの記事で述べてきた彗星や隕石を介して惑星間における生命の伝播が行われるとする岩石パンスペルミア説と、

微生物などが恒星から放出される光の放射圧の流れに直接乗ることによってそうした生命の伝播がなされていくとする光パンスペルミア説という

方法論の面における二つのパンスペルミア説のパターンに次ぐ第三のパンスペルミア説のパターンとして、

生命体自身は直接移動しなくても、光エネルギーや電磁波エネルギーを介して自らの遺伝情報の遠隔的な伝達を行い、

さらには、そうした特殊な波形を持つ光エネルギーや電磁波エネルギーを地球から遠く離れた惑星系に対して照射し続けることによって、

物理的には遠く離れた場所にある惑星において新たな生命を人為的に誕生させるといった形で宇宙空間を越えた遠隔的な生命の伝播を行っていくことも理論上は可能であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:天動説とはなにか?①古代ギリシアの三つの天動説、エウドクソスの同心天球とアポロニウスの周転円とヒッパルコスの離心円

前回記事:『宇宙船ビーグル号の冒険』におけるイクストルとパンスペルミア説の関係、宇宙の終末を越えて生命を伝播する超生命体の存在

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