「逆転移」とは何か?患者と治療者との間の心理的な関係の逆転現象としての「逆転移」の具体的な心理的プロセス、防衛機制とは何か?㉖
前々回と前回の記事で書いてきたように、フロイトの精神分析学などの心理学的な治療の過程においては、
しばしば、「転移」と呼ばれる患者の側から治療者の側へと向けられる治療の範囲を超えた不適切な形での感情移入や感情の移転が進んでいくことがあると考えられることになるのですが、
それに対して、
こうした「転移」と呼ばれる心の働きのあり方とは逆に、治療者の側から患者の側へと向けて不適切な形での感情移入が進んでいくケースもあり、
そのようなケースにおいては、こうした治療者側の心の内で働く自我の防衛機制のあり方は、心理学においては「逆転移」と呼ばれる心の働きのあり方として捉えられていくことになります。
心理学における「逆転移」の定義と治療の範囲内における適切な感情移入のあり方との違い
まず、冒頭でも述べたように、
フロイトの精神分析学などの深層心理学の分野においては、「逆転移」(counter transference)と呼ばれる概念は、
治療者側から患者側へと無意識の内に向けられる感情移入などの心の動きのことを意味する自我の防衛機制の働きの一種として定義されることになります。
しかし、その一方で、
そもそも、精神分析学などの心理学的な治療の過程においては、治療者側は患者が抱えている心理的な問題を解決へと導いていくために、患者自身の心の深層部分へと踏み込んでいく形で患者の心と深く関わっていくことになるで、
その過程において、治療者側が患者の心の側へと深く寄り添っていく形である程度の感情移入が生じていくというのは、
むしろ、医師やカウンセラーがそうした心理学的な治療に真剣に取り組んでいく限りにおいて必要不可欠な当然の心理現象であるとも考えられることになります。
したがって、より厳密な意味においては、
こうした「逆転移」と呼ばれる治療者側の心の働きが現実的な問題となって現れてくるのは、
そうした治療者側から患者側への感情移入の進み方において、治療者側が患者側の特定の心理状態に強く感化されていくことによって、
心理学的な治療のために必要な適切な範囲を超えて、そうした患者の心理のあり方や患者の存在そのものに過度に肩入れしてしまい、
自分自身の治療者としての中立的な立ち場を見失ってしまうほどまでにそうした患者側への感情移入が進展していってしまうようなケースに限られることになると考えられるのです。
患者と治療者との間の心理的な関係の逆転現象としての「逆転移」の具体的な心理的プロセス
それでは、こうした「逆転移」と呼ばれる自我の防衛機制の働きは、より具体的にはどのような心理的なプロセスにおいて進展していくことになると考えられのか?ということについてですが、
それについては、一言でいうと、前回の記事で取り上げた患者側から治療者側へと向けられる心の動きのなかの「正の転移」のパターンと同様の心理的なプロセスにおいて、こうして「逆転移」と呼ばれる心の働きが進展していくことになると考えられることになります。
「正の転移」においては、患者の側は治療者に対して抱いている信頼感などを増幅させていくなかで、「取り入れ」や「同一化」と呼ばれるプロセスを経ていくことによって、
患者側の治療者側に対する深い愛情や依存心といった強い感情移入を引き起こしていくことになると考えられることになるのですが、
それとは対照的に、
「逆転移」と呼ばれる心の働きにおいては、治療者側は患者の側の病的な心理に深く関わっていくなかで、患者に対する親近感などを増幅させていくことになり、
そうした心理学的な治療の過程において、通常の場合とは逆に、患者の側が持っている価値観や感情といった心の性質が治療者側の心の内へと「取り入れ」られていき、
さらには、そうした患者自身が有する心の性質を全面的に自分自身の人格の内へと取り込んでいく「同一化」のプロセスが進展していくことによって、治療者側の患者側に対する強い感情移入が引き起こされていくことになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした「逆転移」と呼ばれる心の働きのあり方は、
心理学的な治療の過程において、強い影響力を持った患者側の心の状態に対して、治療者側の心が深く感化されることによって、患者の側の心の性質が治療者側の心の内へと取り入れられ、両者の心の状態の同一化が進展していくことになり、
それによって、治療者側の患者側に対する深い愛情や依存心といった強い感情移入が生じていくことになるというように、
本来の患者と治療者との間の心理的な関係が逆転していくことによって生じる心理現象として捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:転移と逆転移の違いとは?患者と治療者の人間関係における双方向的な感情移入の働き、防衛機制とは何か?㉗
前回記事:心理学における「転移」とは何か?②「退行」のプロセスを前提として形成される複合的で派生的な自我の防衛機制のあり方、防衛機制とは何か?㉕
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