転移と逆転移の違いとは?患者と治療者の人間関係における双方向的な感情移入の働き、防衛機制とは何か?㉗
このシリーズの三回前の記事から前回までの記事で詳しく考察してきたように、フロイトの精神分析学などの心理学的な治療の過程において、患者と治療者の両者の間に生じる自我の防衛機制の働きとしては、
「転移」と「逆転移」と呼ばれる二つの心の働きのあり方が挙げられることになるのですが、
今回の記事では、こうした患者と治療者という特殊な関係性の内において生じる「転移」と「逆転移」という二つの心の働きのあり方について、
改めて心理学における両者の概念の定義のあり方について整理していくことを通じて、両者の心の働きの間に存在する具体的な性質の共通点と相違点についてまとめていきたいと思います。
心理学における「転移」と「逆転移」の具体的な定義の違いのまとめ
まず、これまでの一連の記事で考察してきたように、
心理学の分野においては、「転移」(transference)とは、心理学的な治療の過程において生じる患者の側から治療者の側へと無意識の内に向けられる感情転移や感情移入などの心の動きのことを意味する概念として定義されることになるのに対して、
「逆転移」(counter transference)とは、そうした心理学的な治療の過程において、「転移」の場合とは反対に、治療者側から患者側へと向けられる感情移入などの心の動きのことを意味する概念として定義されることになります。
そして、前者の「転移」の場合には、
一連の治療の過程を通じて患者が治療者に対して心を開いていくなかで、相手に感じている信頼感や親近感といった感情が「取り入れ」や「同一化」と呼ばれる心の働きを通じて治療者側への深い愛情や依存心へと発展していく「正の転移」と呼ばれる心の働きのあり方と、
そうした治療の過程において無意識の領域の内に抑圧されていた憎悪や敵対心といった負の感情のエネルギーが「投影」や「置き換え」と呼ばれる心の働きを通じて治療者側へと向け変えられていく形で感情の転移が進んでいく「負の転移」と呼ばれる心の働きのあり方という二通りのパターンが存在すると考えられることになるのですが、
それに対して、後者の「逆転移」の場合には、
一連の治療の過程を通じて形成された患者と治療者との間の心理的な結びつきを介して生じる感情の流れが反転して、治療者側の方が患者側に対して必要以上に深く感情移入していくことによって、患者側への依存心が生じていくことになるというように、
言わば、「正の転移」における感情移入の流れが逆流していくような形で、こうした「逆転移」と呼ばれる心の働きが生じていくことになると考えられることになるのです。
患者と治療者の人間関係において生じる双方向的な感情移入の働き
以上のように、
精神分析などの心理学的な治療の過程においては、通常の場合、治療のなかで築かれていった患者と治療者の間の個人的な人間関係を介して、患者側の治療者側に対する過度な愛情や依存心が生じていってしまう「正の転移」と呼ばれる心の働きや、
それとは反対に、患者の心の内に抑圧されていた負の感情のエネルギーが治療者側に向けられて一気に噴出してしまう「負の転移」と呼ばれる心の働きなどが生じていくことがあると考えられることになるのですが、
それに対して、
そうした患者と治療者の間に生じている心理的な関係が逆転して、患者の心理状態の方に治療者の心の方が深く感化されていく場合には、それは「逆転移」と呼ばれる心の働きへと転換していくことになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした「転移」と「逆転移」と呼ばれる二つの心の働きのあり方は、一言でいうと、
心理学的な治療の過程において形成されていく患者と治療者の人間関係のなかで生じていくことになる双方向的な感情移入の働きとして捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:心理学における適応的防衛と不適応的防衛の違いとは?①単純性と複雑性および部分性と全体性という観点から見た両者の区別、防衛機制とは何か?㉘
前回記事:「逆転移」とは何か?患者と治療者との間の心理的な関係の逆転現象としての「逆転移」の具体的な心理的プロセス、防衛機制とは何か?㉖
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