心理学における適応的防衛と不適応的防衛の違いとは?①単純性と複雑性および部分性と全体性という観点から見た両者の区別、防衛機制とは何か?㉘
前回までの一連の記事では、現実の社会において生じる様々なストレス状況などから自分自身の心を守ろうとする心の働きである自我の防衛機制の代表的な種類について一つ一つ取り上げていく形で詳しく考察してきましたが、
このシリーズの初回の記事のなかでも触れていたように、そうした自我の防衛機制の働きのなかには、それが発動することによって現実における社会生活がよりスムーズな形へと移行していく社会適応的な防衛機制のあり方と、
それとは反対に、それが発動することによってかえって健全な社会生活を営むことがより難しくなってしまう不適応的な防衛機制のあり方という二パターンの防衛機制の働きがあると考えられることになります。
そこで、今回の記事では、
そうした現実の社会生活に対する適応的な防衛と不適応的な防衛のあり方という観点から、改めてこうした自我の防衛機制と呼ばれる心の働きの意味について考えていきたいと思います。
単純で小規模な防衛機制から複雑で大規模な防衛機制への移行
まず、人間の心における様々な防衛機制の種類のなかには、
はじめは比較的単純で小規模だった防衛機制の働きが、社会的なストレスの度合いなどが強まってくるのに従って、より複雑で大規模な防衛機制の働きへと進展していってしまうことがあると考えられることになりますが、
このようなケースでは、防衛機制の働きがはじめの単純で小規模な働きにとどまっていった段階においては、通常の社会生活を維持していくのが比較的容易であったのに対して、
防衛機制の働きがより複雑な種類へと変化していき、その影響が及ぶ範囲も拡大していくにしたがって、そうした防衛機制の働きに基づく認識の歪みのあり方と現実における実際の状況との間の差異が大きくなっていくことによって、通常の社会生活を維持していくのが困難な状態へと陥ってしまう傾向が強まっていくことになると考えられることになります。
例えば、
自分自身の心にとって有害な観念や情動などの一部を意識的な思考や認識の領域から切り離して無意識の領域の内へと押し込めてしまう心の働きとしては、「抑圧」や「情動分離」といった自我の防衛機制の種類が挙げられることになりますが、
こうした「抑圧」や「情動分離」といった防衛機制の働きがさらに強まっていくと、無意識の領域の内に押し込められていた観念や情動が一つの大きなまとまりを形成していき、
そうした心の領域全体が自分の人格が存在する領域とは別の心の領域へと分裂していくことになる「解離」と呼ばれる防衛機制の働きへと進展していってしまうケースがあると考えられることになります。
そして、
こうした「解離」と呼ばれる心の働きにおいては、心の領域全体の分裂と隔離というより複雑で大規模で防衛機制の働きが進展していくことによって、
より重度の場合には、二重人格や多重人格といった状態に代表される解離性同一性障害において見られるような記憶の欠落や人格の分裂が進展していってしまうことになるので、
それに伴って、通常の社会生活を維持していくことが困難な状況へと陥ってしまうケースがあると考えられることになるのです。
単純性と複雑性および部分性と全体性という観点から見た適応的防衛と不適応的防衛の区別
以上のように、
「抑圧」や「情動分離」といった比較的シンプルな機能をもった防衛機制の働きにおいては、そうした防衛機制の働きの影響範囲も自らの心の無意識的な領域の一部といった比較的小規模で部分的な範囲にとどまる傾向にあるのに対して、
そうした心の働きがさらに進展していくことによって引き起こされる「解離」といったより複雑な機能をもった防衛機制の働きにおいては、そうした防衛機制の働きの影響範囲も自分自身の人格の維持にも関わるようなより大規模で全体的な範囲へと広がっていくことになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、一般的に、
自我の防衛機制の働きのあり方が比較的単純な働きを持った防衛機制の種類の段階にとどまっていて、その影響範囲も小規模で部分的なものに限られている場合、
それは、通常の社会的な生活を維持していくことが容易な適応的防衛として捉えることができるケースが多いと考えられるのに対して、
そうした防衛機制の働きのあり方がより複雑な働きを持った防衛機制の種類へと移行していってしまい、影響範囲もより大規模で全体的な範囲へと拡大していってしまう場合には、
それは、通常の社会的な生活を維持していくことを困難にしてしまう不適応的防衛として捉えられていくことになると考えられるのです。
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