妄想と白昼夢の違いとは?現実の世界と想像の世界の区別という観点から見た両者の具体的な特徴の違い、防衛機制とは何か?㉓
このシリーズの前回の記事で詳しく考察したように、無意識の内に抑圧されされている感情や衝動が、
現実の世界における自分自身の身体の状態へと具現化される形であらわれる自我の防衛機制の働きとしては、「身体化」と呼ばれる心の働きが挙げられることになるのですが、
それに対して、
そうした無意識の領域の内に抑圧された衝動や願望が現実の世界ではなく、自分自身の頭の中の想像や幻想の世界において表出していくケースにおいては、
今度は、妄想や白昼夢と呼ばれる自我の防衛機制の働きが関係してくることになると考えられることになります。
心理学における「妄想」と「白昼夢」の定義と具体例とは?
心理学や精神医学の学問分野においては、「妄想」(delusion)とは、
知覚や論理に基づくような客観的な根拠を持たない信念やイメージが勝手に本人の頭の中だけで形づくられてしまうことによって、そうした根拠のない不合理な内容の信念やイメージを現実のものとして主観的に確信してしまう心の働きのことを意味する概念として定義されることになると考えられ、
具体的には、
周りの人々の会話などの言動がすべて自分自身に対して向けられているものだと思い込んでしまう関係妄想や、
仕事や私生活において何か悪いことが起こると、それは単なる偶然ではなく誰かによって仕組まれた他者の悪意によってもたらされた出来事であると捉え、自分が常に盗聴や監視をされているように感じたり、すぐに自分の物が盗まれたと思い込んだりしてしまう被害妄想、
さらには、
自らの心の内に抑圧された願望の増大に合わせて自分自身の存在を過大評価しすぎてしまうことによって、実際には存在しない能力や地位や財産といったものが自分にはあると思い込んでしまう誇大妄想や、
実際には物理的な病変や身体的な機能障害は生じていないにもかかわらず、自分が不治の病や重病にかかっていると思い込んでしまう心気妄想といった心理状態のあり方などが、
代表的な心理学的な「妄想」の種類として挙げられることになると考えられることになります。
そして、それに対して、
「白昼夢」(daydream)と呼ばれる心の働きにおいては、
本人自身は覚醒状態にあるにもかかわらず、それと同時に、一時的に夢の中にいるような意識の状態へと移行してしまうことによって、抑圧されていた様々な願望や衝動を空想の世界の中で満たそうとしていく心の働きとして定義されることになり、
例えば、
単純な作業な繰り返しや、堂々巡りの話し合いなどをしているうちに、現実の状況に対する集中力が低下して注意が散漫になってくることによって、
表面上では、簡単な作業をそのまま続けたり、聞いてもいない相手の話に適当な相づちなどを打ったりしながら頭の中では全然違うことを考えていて、心は非現実的な空想の世界の内を飛び回っているといったケースが、
こうした「白昼夢」と呼ばれる自我の防衛機制の働きが生じる具体的な事例として挙げられることになると考えられるのです。
現実の世界と想像の世界の区別という観点から見た「妄想」と「白昼夢」の具体的な特徴の違いとは?
それでは、こうした心理学における「妄想」と「白昼夢」と呼ばれる二つの心の働きのあり方には、具体的にどのような特徴の違いがあると考えられるのか?ということについてですが、
それについては、一言でいうと、
「妄想」の場合には、本人の心の中において、現実の世界における認識と自分の頭の中でつくり上げた想像の世界における認識との区別がきちんとついていないのに対して、
「白昼夢」の場合には、自分がいま思い描いているイメージや認識は、夢を見ている時と同様の空想の世界の中の出来事であり、現実の世界における認識とは違うという区別が明確についているといった点に、
両者の心の働きの間に存在する明確な相違点を見いだすことができると考えられることになります。
ちなみに、日常的な言葉としての「妄想」という用語の用いられ方としては、前述したような「白昼夢」のケースについても、
「ぼーっとしていて頭の中では全然違うことを「妄想」していた」というように、本人が現実の世界と空想の世界をきちんと区別している場合でも「妄想」という言葉が用いられることがあると考えられることになるのですが、
心理学や精神医学の分野においては、そうした現実の世界における認識との区別をしっかりと保ったまま抑圧された願望や感情のイメージが意識の中へと表出していく心の働きのあり方は、
今回取り上げた「白昼夢」と呼ばれる自我の防衛機制の働きや、あるいは、単なる「空想」といった言葉によって表現されるべき心理状態のあり方として、明確な形で区別されていくことになると考えられることになるのです。
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