オリンピックの五輪の紋章の古代ギリシア起源説の真偽とは?デルフォイの石碑に刻まれた謎の紋章とカール・ディームの石
前回の記事で書いたように、オリンピックを象徴する色としてオリンピックシンボルの五つの輪に描かれている青・赤・黄・緑・黒の五色、そして、その背景にある白を加えた六色が選ばれることになった思想的な背景については、
古代ギリシア哲学における四元素や、古代中国における陰陽五行説といった古代思想のうちに、その大本の起源となる思想を読み解いていくこともできると考えられることになるのですが、
それでは、それに対して、
五つの輪が互いに連結された形で描かれていくことになるオリンピックの五輪のデザインの形が選ばれることになった背景には具体的にどのような起源があると考えられることになるのでしょうか?
ギリシアのデルフォイの地に存在する五輪の紋章が刻まれた石碑
そうすると、まず、
こうしたオリンピックの五つの輪の形の起源については、オリンピックの五つの色の起源と同様に、
近代オリンピックの原型となったオリンピアの祭典が行われていた古代ギリシアの時代にまでさかのぼることができるという説がしばしば挙げられることがあります。
そして、そうした説においては、多くの場合、
かつてアポロンの神託で有名な古代ギリシアのデルフォイの地に存在したとされている謎の石碑に刻まれていた五つの輪の紋章が直接的な起源となることによって、
こうした近代オリンピックの象徴となる五つの輪の形が生まれていくことになったという説がまことしやかに語られていくことになると考えられることになるのです。
ベルリンオリンピックにおける聖火リレーの壮大な演出とカール・ディームの石
しかし、その一方で、
こうしたオリンピックの五輪の形についての古代ギリシア起源説については、現代においては大きな疑義が呈されていて、
実際には、
そうしたギリシアのデルフォイの地に存在する五つの輪の紋章が刻まれた石碑は、1936年に開催されたベルリンオリンピックの際に世界の各地で行われた壮大な儀式の演出のなかで生み出された産物であるという説が有力とされていると考えられることになります。
1936年のベルリンオリンピックにおいて大会の組織委員会の事務総長を務めることになったドイツの体育学者であったカール・ディーム(Carl Diem、1882~1962)は、
古代オリンピックの発祥の地にあたるギリシアで採火した聖火をベルリンまで長い道のりをかけてリレー形式で運んでいくというオリンピックにおける聖火リレーを創始した人物としも知られているのですが、
そうしたカール・ディームの指揮において執り行われたベルリンオリンピックの聖火リレーにおいては、
かつて古代ギリシアのオリンピアの祭典が行われていたギリシアのペロポネソス半島の西部に位置するオリンピアの地のヘラ神殿の遺構において、凹面鏡を用いて集められた太陽光から採火された聖なる炎は、
その後、ヨーロッパの各地を巡る3000km以上の道のりを経てドイツの首都であるベルリンにまでたどり着くという壮大な儀式が行われていくことになっていったと考えられることになります。
そして、
こうしたベルリンオリンピックにおける聖火リレーの演出のなかでは、こうした壮大な儀式が古代ギリシアに起源をさかのぼることができるような由緒正しい儀式であるということに信憑性を持たせるために細部にわたって様々な細工がなされていて、
そうした細工のうちの一つとして、アポロンの神託で有名だったデルフォイの地には、聖火リレーにおける道しるべとして、
のちにカール・ディームの石(Carl Diem’s Stone)として知られることになる近代オリンピックの象徴であった五つの輪の形が古めかしく刻み込まれた新たな石碑が置かれることになったと伝えられています。
そして、その後、
こうしてデルフォイの地に置かれた五つの輪の形が刻まれた石碑は、ベルリンオリンピックが終わってもそのまま回収されずにこの地に置き去りにされてしまうことになり、
そうした一連の出来事が忘れ去られてしまったのち、
デルフォイの地を訪れた2人のアメリカ人の作家たちがこの地でくだんの石碑を再発見して、逆に、その石碑に刻まれた五輪の紋章こそが近代オリンピックにおける五つの輪の形のシンボルの起源となったに違いないと考えて、
それを1960年ごろに古代オリンピックの歴史として紹介したことによって、こうしたオリンピックの五輪の形についての古代ギリシア起源説が世界へと広まっていくことになってしまったとも考えられることになるのです。
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次回記事:オリンピックの五つの輪のデザインとフランススポーツ協会連合を象徴する青と赤の互いに連結された二つの円環との関係
前回記事:オリンピックの五色とギリシア哲学における四元素説と陰陽五行説との関係
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