三皇と五帝の違いとは?神々の治世から人間の帝王の治世への古代中国の神話と伝承の世界における時代の変遷のあり方
「三皇とは何か?」と「五帝とは何か?」の記事で書いたように、
古代中国における伝説的な帝王の名としては、一般的には、
三皇(さんこう)と呼ばれる伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)といった太古の世界を統治していたとされる三人の帝王と、
五帝(ごてい)と呼ばれる黄帝(こうてい)・顓頊(せんぎょく)・帝嚳(ていこく)・尭(ぎょう)・舜(しゅん)といった五人の聖君の名が、それぞれ別々に分けられる形で挙げられていくことになります。
それでは、
こうした古代中国の神話時代における伝説上の帝王たちは、なぜ、三皇と五帝という二つのグループへと別々に分けられる形で記述がなされていると考えられ、
三皇と五帝の両者には、それぞれ互いにどのような性質や特徴の違いがあると考えられることになるのでしょうか?
三皇の治世から五帝の治世への時代の変遷
こうした三皇と五帝と呼ばれる古代中国の神話時代における伝説上の帝王の分類のあり方の両者の間にみられる具体的な相違点としては、
まず、
三皇のうちの最後の帝王として挙げられている神農の後を継いで古代世界を統治した帝王として、五帝のうちの最初の帝王である黄帝の名が挙げられていることからも分かる通り、
三皇と呼ばれる帝王たちは、のちに五帝と呼ばれることになる帝王たちよりもさらに以前の時代に存在していたとされる帝王たちであるという点が挙げられることになります。
つまり、
通常の場合、中国神話においては、
三皇と呼ばれる帝王たちのグループは、五帝と呼ばれる帝王たちのグループに時間的に先行する形で存在していたとされていて、
五帝と呼ばれる聖王たちは、三皇と呼ばれる帝王たちが作り上げた人間社会と国のあり方を土台として、彼らの治世を引き継いでいく形で、自らの時代におけるより優れた統治体制を築き上げていったと考えられることになるのです。
異形の姿をした神々としての三皇と人間の姿をした聖君としての五帝
そして、
こうした三皇と呼ばれる帝王として一般的に挙げられている伏羲・女媧・神農という三人の帝王たちは、
伏羲と女媧は、上半身は人間のような顔形をしていながら、下半身は蛇のような姿形をした蛇身人首の姿をした神でもあり、
神農は、体は人間でありながら、頭は牛の姿をした牛頭人身の姿をした神でもあるとされているように、
こうした三皇と呼ばれる帝王たちは、古代における人間の社会と国家を統治した太古の時代の帝王であると同時に、
人間の創造にもたずさわり、自然界の力を自由に操る超常的な力を持った異形の姿をした神々としても位置づけられていると考えられることになります。
それに対して、
彼らの後の時代に中国の古代世界を統治することになった五帝として一般的に挙げられている黄帝・顓頊・帝嚳・尭・舜という五人の聖君たちは、
こうした五人のうちの最初の帝王である黄帝が漢民族の祖としても位置づけられる人物であり、最後の尭と舜という二人の帝王は、のちに、儒教において聖人として神聖視されていくことになる人物であることからも分かる通り、
通常の人間には到底及びつくことのできない卓越した徳と能力を持った聖君として位置づけられてはいるものの、
こうした五帝と呼ばれる聖君たちが、人間離れした異形の姿や、妖術を駆使するような超常的な力を持った人間とは異質な存在として語られているケースはほとんど存在せず、
むしろ、
そうした五帝たちの姿は、のちの中国の歴代王朝における皇帝たちが目指すべき君子の理想の姿として位置づけられていると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
三皇と五帝の両者における具体的な性質や特徴の違いとしては、
三皇と呼ばれる帝王たちは、五帝と呼ばれる帝王たちよりもさらに以前の時代に存在していたより古い時代の帝王として位置づけられていて、
伏羲・女媧・神農の三皇は、古代における人間の社会と国家を統治していた太古の時代の帝王であると同時に、人間を超える超常的な力を持った異形の姿をした神的な存在でもあったとされているのに対して、
黄帝・顓頊・帝嚳・尭・舜の五帝は、卓越した徳と能力を持った人間の帝王であり、彼らは、のちのあらゆる時代の人々の模範となる聖君として位置づけられているといった点が挙げられることになると考えられることになります。
つまり、
こうした中国神話における三皇による治世の時代から、五帝による治世の時代への移り変わりのあり方においては、
三皇と呼ばれる異形の姿をした神々が人間を創造して、そうしてできた人間の社会と国家を自ら統治する神話時代から、
五帝と呼ばれる人間の帝王たちが自らの手によって新たな社会と国家を築いていく歴史時代へと時代の流れが大きく転換していくという
古代中国の神話と伝承の世界における大きな時代の変遷のあり方が示されていると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:
このシリーズの前回記事:五帝とは何か?②伏羲・太昊・神農・炎帝・少昊・禹・湯などの様々な帝王の中から『史記』における五人の聖王が選ばれた理由
「中国神話」のカテゴリーへ
「語源・言葉の意味」のカテゴリーへ