ホムンクルスとは何か?①ラテン語の語源と体の小ささだけでなく心の小ささも意味する「小心者」や「小人物」としての意味

ホムンクルス(homunculusとは、現代においては、一般的に、古代の魔術の力や、中世ヨーロッパの錬金術の技術によって創り出される人造人間のことを意味する概念として用いられることが多い言葉ですが、

この言葉自体のもとももとの由来は、ラテン語において人間のことを意味するhomoという単語に求められることになります。

それでは、こうしたラテン語における元々の意味においては、ホムンクルスという言葉は、具体的にどのような意味を持つ言葉であったと考えられることになるのでしょうか?

今回は、そうした古代ローマの言語であるラテン語へとさかのぼる語源的な意味から、ホムンクルスという言葉が持つ本来の意味について迫っていきたいと思います。

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ラテン語におけるホムンクルスの語源と、英語・ドイツ語・ラテン語などにおける指小辞(縮小辞)の概念

まず、冒頭でも述べたように、

ホムンクルスという言葉は、もともと、ラテン語に由来する言葉であり、

古代ローマを代表する文筆家であり、政治家や哲学者でもあったキケロなどの著作のうちにも、こうしたhomunculus(ホムンクルス)という言葉が用いられている記述を見いだすことができます。

そして、語源的な意味においては、

homunculus(ホムンクルス)という言葉は、もともと、ラテン語において「人間」を意味する名詞であるhomo(ホモ)という単語に由来する言葉ということになるのですが、より具体的に言うと、

homunculusという単語は、こうしたラテン語の名詞homo指小辞-culus(クルス)が結びつくことによってできた派生的な名詞ということになります。

指小辞(ししょうじまたは縮小辞とは、主に名詞や形容詞の語尾などに付くことによって、「小さい」「少し」といった意味を表す接辞の一種であり、

例えば、

英語のtable(テーブル)という単語の語尾が-letとなったtablet(タブレット)という単語は、小さな板や錠剤のことを意味する単語として用いられ、

ドイツ語で「パン」を意味するBrot(ブロート)という単語の語尾に-chenが付いてBrötchen(ブレートヒェン)となると、丸い小型のパンパンの小片のことを意味する単語として用いられることになるように、

現代の言語でいうと、こうした英語の-let(レット)や、ドイツ語の-chen(ヒェン)といた接尾辞が、こうした指小辞にあたる語として捉えることができると考えられることになります。

そして、

ラテン語において、こうした指小辞にあたる語としては-ellum(エルム)や、-ullus(ウルス)-culus(クルス)といった接尾辞が挙げられることになり、

例えば、

ラテン語で「脳」を意味するcerebrum(ケレブルム)という単語に、指小辞である-ellumが付いたcerebellum(ケレベルム)という単語は、「小脳」のことを意味することになり、

ラテン語で「束」や「荷物」のことを意味する単語であるfascis(ファスキス)※に、指小辞-culusが付いたfasciculus(ファスキクルス)という単語は、

小さな束小さな荷物、すなわち、「小包」のようなものを指す言葉として用いられることになります。

ちなみに、余談ではありますが、ラテン語のファスキス(fascis)の複数形にあたるファスケス(fascesという単語は、古代ローマの権力者たちが引き連れていた護衛官たちが権威の象徴として担いでいた斧の周りに木の棒の束をくくりつけたもののことを意味する言葉としても用いられていて、

こうしたラテン語におけるファスケス(fascesという単語は、のちに、ムッソリーニやヒトラーで悪名高いファシズム(fascism、結束主義、全体主義)の語源となっていくことになります。

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体の小ささだけではなく、心の小ささも意味するラテン語における本来のホムンクルスという単語の意味

そして、

こうした-ullus(ウルス)-culus(クルス)といったラテン語の指小辞が、「人間」を意味するhomo(ホモ)という単語に結びつくことによってできた

homullus(ホムルス)、あるいは、homunculus(ホムンクルス)という単語が、

小さな人間、すなわち、小人(こびと)のことを意味する言葉として用いられるようになっていったと考えられることになるのですが、

こうしたラテン語におけるhomullusやhomunculusという言葉は、単に背が低かったり、小柄であるといった体の小ささのことを意味するだけではなく、心の小ささを意味する言葉としても用いられていて、

取るに足らない小人物や、臆病な小心者のことを指してこうした言葉が用いられるケースも多くあったと考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

ホムンクルス(homunculusという言葉は、もともとのラテン語の語源においては、

ラテン語で「人間」のことを意味するhomo(ホモ)という名詞に、「小さい」「少し」といった意味を表す接辞の一種である指小辞にあたる-culus(クルス)という接尾辞が結びつくことによってできた言葉であると考えられることになります。

そして、

こうした古代ローマにおけるラテン語の段階においては、ホムンクルスという言葉は、

「小柄な人物」「小人」、あるいは、それが単なる体の小ささだけではなく、心の小ささも意味する言葉として捉えられることによって、

「小心者」「小人物」のことを意味する言葉としても用いられていたと考えられることになるのですが、

詳しくはまた次回改めて考察していくように、

こうしたラテン語において「小さな人間」のことを意味するホムンクルス(homunculusという言葉は、

中世ヨーロッパにおいて、貴金属の錬成、賢者の石不老長寿の秘薬をつくり出すことを求める錬金術師たちの手によって、

人間の自然な生殖によってではなく、錬金術師たちの手による人為的な生命の錬成によって創り出される人造人間のことを意味する言葉へと変容していくことになっていったと考えられることになるのです。

・・・

次回記事:古代の魔術師シモン・マグスによる水から血、血から肉への人体の錬成、ホムンクルスとは何か?②

前回記事:受精卵と胞子の違いと中世ヨーロッパの錬金術における古典的な人造人間(ホムンクルス)の製造方法

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