受精卵と胞子の違いと中世ヨーロッパの錬金術における古典的な人造人間(ホムンクルス)の製造方法
前回の記事で書いたように、植物における次世代の個体の誕生の源となる存在としては、種子と胞子と呼ばれる二つの存在が挙げられることになり、
両者を区別する具体的な特徴の違いの中でも、最も重要な相違点としては、
種子と胞子というそれぞれの存在が、単独で次世代の新しい個体を形成することができるのか、それとも、次世代の個体を形成するためには自分以外の別の個体の生殖細胞を必要とするのかという
生殖形態の違いのあり方を挙げることができると考えられることになります。
そして、
こうした植物と胞子の両者を区別する根本的な特徴の違いのあり方は、
動物や人間の生命の源となる存在である受精卵と胞子とを区別する具体的な特徴の違いのあり方にも同様に適用することができると考えられることになります。
受精卵と胞子の両者を区別する最も根本的な特徴の違いとは?
動物や人間の受精卵と、シダ植物やコケ植物、藻類、菌類などの植物における胞子の具体的な特徴の違いとしては、
受精卵は有性生殖によって形成されるのに対して、胞子は無性生殖によって形成される。
受精卵の細胞膜は通常細胞と同様に比較的柔らかい構造となっているが、胞子の細胞膜は比較的厚く硬化した構造となっていて、熱や乾燥に対する一定の耐久性を持つ。
受精卵の核相は常に複相(2n)であるのに対して、胞子の核相は単相(n)、複相(2n)、重相(n+n)といった極めて多様な染色体の構造へと分かれる。
といった具体的な特徴の違いを挙げることができると考えられることになります。
そして、
そうした受精卵と胞子の両者を区別する様々な特徴の違いのなかでも、最も重要な相違点としては、両者の生殖細胞における生殖形態の違いが挙げられることになると考えられることになります。
前回書いたように、種子と胞子の両者を区別する最も根本的な特徴の違いとしては、
種子の場合には、雌しべと雄しべという二つの互いに異なる器官に由来する二つの生殖細胞の接合によって新しい個体が形成されることになるのに対して、
胞子の場合は、そうした他の個体の生殖細胞との接合を必要とせずに、単独で新しい個体を形成することができるという点が挙げられることになるのですが、
それと同様に、
受精卵と胞子の両者を区別する最も重要な違いも、
受精卵の場合、必ず雌と雄の両者の生殖細胞が合わさることによって新しい個体が形成されることになるのに対して、
胞子の場合は、他の個体の生殖細胞を必とすることなく、自分自身だけの単独で新しい個体を形成することが可能となるという点に、
両者の存在を区別する根本的な特徴の違いがあると考えられることになるのです。
中世ヨーロッパの錬金術における古典的な人造人間(ホムンクルス)の製造方法と受精卵と胞子生殖の違い
ちなみに、
中世ヨーロッパの錬金術においては、古典的な人造人間(ホムンクルス)の製造方法として、
フラスコの上部から斜め下に向かって管が伸びるような形状をした物質の蒸留などを行う際に用いられるガラス製の実験器具であるレトルトの容器の内部に男性の生殖細胞を密閉したうえで、温度や湿度、養分などの適切な条件を整えて一定の月日の経過を待つと、
やがて、そのレトルトの容器の内部に、暗闇の中で輝く稲妻のような閃光が現れ、白い光と共に生気が立ちのぼると透明な妖精や小人のような姿をした人造人間(ホムンクルス)を創造することができると考えられていて、
こうした中世の錬金術における古典的な人造人間の創造の試みは、現代の遺伝子工学におけるクローン人間製造の技術と同様に、
当時のキリスト教のカトリック教会においても、生命の神秘を司る神の領域を犯す行為として禁じられ、他の錬金術の様々な思想や技術と同様に異端として迫害の対象とされてきたのですが、
それはともかくとして、
前述したように、人間の新しい個体は雌と雄の両者の生殖細胞が合わさることによって生じる受精卵からのみ形成されるのであって、
人間の生殖細胞は、雌か雄どちらか一つの生殖細胞のみから単独で新しい個体を形成することは原理的に不可能なので、
こうした中世の錬金術師たちの手による人造人間(ホムンクルス)の創造の試みは、必然的に失敗に終わることになったと考えられることになります。
しかし、それに対して、
もしも、人間の生殖細胞が、種子植物における種子のような存在ではなく、シダ植物とコケ植物あるいは菌類におけるような胞子に近い働きをもつ存在であったとしたならば、
そうした胞子のような働きをもった生殖細胞からは、中世の錬金術師たちが考えたように、
適切な温度や湿度などの条件が整い一定時間が経過すると、ちょうど、キノコの胞子が発芽して新たな子実体形成されて成長していくのと同様に、
ガラス製のレトルトやフラスコの中に入った人間の生殖細胞から、異形の姿をした人造人間(ホムンクルス)が誕生するということも十分に可能となっていたかもしれないと考えられることになります。
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つまり、そういう意味では、
実際の現実の世界においては、人間や動物の生殖細胞は、植物や菌類における胞子よりも、種子の方に近い存在であるため、そうした人間や動物の生殖細胞においては、
雌か雄のいずれか一つの生殖細胞のみから、その生物の新たな個体を誕生させることは不可能であると考えられることになるのですが、
もしも、そうした人間の生殖細胞が、種子植物の種子のような存在ではなく、シダ植物やコケ植物やキノコなどにおける胞子のような性質をもった存在であったとするならば、
現代のように遺伝子工学の科学技術が大きく発展して、クローン人間をつくり出すことがある程度、技術的に可能となるはるか昔に、
こうした古代や中世における錬金術師たちの段階において、すでにホムンクルス(人造人間)の創造が可能となっていたかもしれないとも考えられることになるのです。
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次回記事:ホムンクルスとは何か?①ラテン語の語源と体の小ささだけでなく心の小ささも意味する「小心者」や「小人物」としての意味
このシリーズの次回記事:キノコは植物なのか動物なのか?①日常的な意味における動物と植物の区別とキノコの分類のあり方
前回記事:種子と胞子の違いとは?両者を区別する七つの具体的な特徴、四つの外面的な特徴の違いと生殖形態における三つの相違点
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