光の波動説におけるエーテル理論の隆盛とマクスウェルの方程式に基づく電磁気学の確立、ローレンツ因子の由来とは?①
前回書いたように、特殊相対性理論における相対性原理を表す方程式である
(ct)2-x2-y2-z2=(ct’)2-x’2-y’2-z’2=0
からは、
慣性系同士の時空座標における不変的な座標の変換形式であるローレンツ変換が導出されることになります。
そして、特殊相対性理論においては、こうしたローレンツ変換と呼ばれる座標の変換形式の内に出てくるローレンツ因子γ
という係数の値に比例する形で、空間や時間が伸び縮みしていくと考えられることになるのですが、
こうしたローレンツ因子と呼ばれる概念の存在が物理学史においてはじめて現れるのは、1905年にアインシュタインの特殊相対性理論が発表されるのにさかのぼること12年前、
1893年にオランダの物理学者であるローレンツによって本来、相対性理論とは直接的には無関係な形で提唱されたローレンツ収縮と呼ばれる一つの仮説において見いだされることになります。
そして、そうしたローレンツ収縮と呼ばれる仮説が提唱されることになった物理学史的な経緯についてより正確かつ具体的に把握するためには、
まずは、19世紀後半の物理学界における古典力学や電磁気学の各分野、そして、理論物理学と実験物理学の各部門における主要な物理学理論の展開の歴史についてある程度十分に把握しておくことが必要となると考えられることになるのです。
マクスウェルの方程式に基づく電磁気学の確立と電磁波としての光
光学や電磁気学、古典力学といった分野における19世紀後半の物理学の歴史においては、
まず、1864年にイギリスの理論物理学者であるジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell)によって発表されたマクスウェルの方程式によって古典電磁気学の基礎理論が確立されると、
そうしたマクスウェルの方程式に基づいて、電界と磁界の変化が波動として空間を伝わっていく電磁波の存在が理論的に予測されることになり、
それによって、一般的に光と呼ばれているものの正体がこうした電磁波と呼ばれる概念によって捉えられる存在であるということが明らかにされていくことになります。
光の存在については、アイザック・ニュートンがニュートン力学(古典力学)の体系を築いた17世紀の時代から、
それが極めて微小な粒子によって構成されているとする光の粒子説と、それが水や空気に類するような何らかの媒質の内を伝わっていく波であるとする光の波動説という二つの学説の対立がずっと続いていくことになるのですが、
こうした光についての二つの学説の対立は、マックスウェルの方程式に基づいて光の正体が電磁波と呼ばれる波の一種として捉えられることが明らかにされたことによって、一気に波動説の方が優勢を占めるようになっていくことになるのです。
19世紀後半の物理学におけるエーテル理論の隆盛と「エーテル」という言葉の古代ギリシア語の由来
そして、19世紀後半における光学と古典力学の各分野においては、こうした電磁気学の分野における理論の発展に呼応して、
電磁波、すなわち、波としての性質を備えた存在である光が空間の内を伝播していくためには、エーテルと呼ばれる未知の媒質が空間の内部全体に満たされていることが必要であるとする議論が主流を占めるようになっていくことになります。
エーテル(英語でaetherまたはether、※発音は共に「イーサー」)という単語は、もともと古代ギリシア語において「輝き」や「炎」、「大気」をいった意味を表すアイテール(aither)という単語に由来する言葉であり、
例えば、古代ギリシアの自然哲学者であるヘラクレイトスの思想においては、万物の始原は火であり、「宇宙は永遠に生きる火である」とされたうえで、
宇宙におけるすべての存在は、万物の始原としての火の原初的な姿でもあるとされる天空に輝く純粋な大気としてのアイテールから生み出されるとされることになります。
このようなもともとは古代ギリシア哲学に源流を持つアイテールの概念に基づいて、光の波動説においては、その学説が提唱された17世紀の時代の当初から、
光が波のような存在であるとして捉えられる以上、その波が伝わっていくための媒体として空間全体に遍在するそうした一種の神秘的な大気に類するような何らかの原初的な物質の存在が必要であると想定されていくことになるのですが、
それが19世紀後半の時代における電磁気学の発展に基づく光の波動説の隆盛を通じて、より説得力をもった現実的な理論として捉えられるようになっていったと考えられることになるのです。
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以上のように、
19世紀後半の物理学史においては、マクスウェルの方程式に基づく電磁気学の確立を経て、光の正体が電磁波と呼ばれる波の一種として捉えられることが明らかにされていくことによって、光学の分野においては光の波動説が隆盛を迎えることになり、
それに伴って、波動としての光は、エーテルと呼ばれる未知の物質を媒介することによって空間を伝わっていくとするエーテル理論が19世紀後半の物理学における主流派の理論として受け入れられるようになっていくことになります。
そして、詳しくは次回書いていくように、
こうした光の媒質としてのエーテルの存在を検出しようとする実験が行われていく中で、その実験結果を整合的に説明するための一つの仮説として、ローレンツ収縮と呼ばれる理論物理学上のモデルが提出されることになるのです。
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次回記事:マイケルソン・モーリーの実験における光速度変化の測定の仕組みとエーテルの実証の失敗、ローレンツ因子の由来とは?②
前回記事:ローレンツ変換とは何か?特殊相対性理論の相対性原理の方程式に基づくローレンツ変換の導出とローレンツ因子の意味
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