ア・プリオリという概念に含まれる三つの意味の違いとは?生物学・心理学・哲学の三分野における解釈の違いのまとめ

このシリーズの初回から前回までの記事で書いてきたように、

もともとラテン語において「より先なるものから」「より先なるものによって」といった意味を表す言葉であるア・プリオリa prioriという概念は、

その概念が用いられる文脈や学問分野の違いに応じて、互いに少しずつ意味の異なる概念として捉えられることになります。

今回は、そうした各学問分野におけるア・プリオリという概念の解釈のあり方の違いについて、改めてまとめ上げていく形で整理していきたいと思います。

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遺伝的な性質の「先天性」としてのア・プリオリの概念

まず、「生物学や医学における「先天性」としてのア・プリオリという概念の意味」の記事で書いたように、

人間を含む様々な生物体の構造を研究する生物学や、人体の仕組みやその様々な状態などを取り扱う医学といった学問分野においては、

より先なるものによって」という意味をもつア・プリオリという概念は、生物や人体の物理的構造や肉体的性質における時間的な先行性を表す概念として捉えられることになり、

それは、人体に生じる先天性の疾患や生物体の遺伝形質などに関わる人間や生物における先天的な性質や状態のあり方を意味する概念として用いられていると考えられることになります。

つまり、生物学医学といった学問分野においては、

一般的に、ア・プリオリという概念は、生物体における遺伝的形質の先天性のことを意味する概念として捉えることができるということです。

心の性質を形成する要素の「生得性」としてのア・プリオリの概念

それに対して、

肉体の構造ではなく精神の構造、すなわち、人間の心を探究する学問分野である心理学の分野においては、

ア・プリオリという概念は、性格や人格といった人間の心の性質を形成する要素の時間的な先行性を表す概念として捉えることができると考えられることになります。

つまり、心理学の分野においては、

ア・プリオリという概念は、その人物自身に生まれながらに備わっている気質などの人間の心の性質における生得的な要素のことを意味する概念として捉えることができるということです。

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論理的な先行性を意味する「先験性」としてのア・プリオリの概念

そして、上述したように、

生物学や心理学といった一般的な学問分野においては、物理的構造と精神的構造、身体と精神というれぞれの学問が取り扱う対象の違いこそあれ、

ア・プリオリという概念は、基本的に、遺伝的形質や生得的性質といった時間的な先行性を意味する概念として捉えられることになるのですが、

詳しくは、「哲学と論理学における「先験性」としてのア・プリオリという概念の意味」の記事で書いたように、

こうした一般的な意味におけるア・プリオリの解釈とは異なり、哲学の分野においては、

一義的に、ア・プリオリという概念は、上記の生物学や心理学の分野におけるような時間的な先行性ではなく、人間の認識における論理的な先行性を意味する概念として捉えられることになります。

人間の認識は、まず、人間の心の側における何らかの知性の働きを前提としたうえで、そこに、世界の側から様々な経験の素材が与えられることによって成立していると考えられることになるのですが、

そういった意味では、そうした人間の心の側にある知性の働きや認識における論理的な枠組み自体は、論理的な順序として現実の世界における様々な経験に先立つ要素、すなわち、先験的な要素であると考えられることになります。

つまり、哲学においては、

ア・プリオリという概念は、一義的には、人間の認識における知性の働きや論理的枠組みの経験の成立に対する論理的な先行性、すなわち、先験性のことを意味する概念として捉えることができると考えられることになるのです。

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以上のように、

ア・プリオリという概念は、それぞれの学問分野が取り扱う対象の違いや、探究の方向性の違いに応じて、

生物学においては「先天的」

心理学においては「生得的」

哲学においては「先験的」

という三つの意味に分けて解釈することができると考えられることになるのです。

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初回記事:ア・プリオリとア・ポステリオリのラテン語における意味の違い、ア・プリオリとは何か?①

前回記事カントの認識論におけるア・プリオリな認識と生得観念の違いとは?ア・プリオリとは何か?⑥

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