生得観念とは何か?①プラトンのイデア論における想起説と生得観念の関係と英語とドイツ語とフランス語における字義上の意味
生得観念あるいは本有観念とは、哲学において、人間に生まれながらに備わっている先天的な観念のことを意味する言葉であり、
哲学史においては、特に、近世哲学の父とも呼ばれるフランスの哲学者であるデカルトや、デカルトと同じ大陸合理論に分類される代表的な哲学者であるドイツのライプニッツが唱えた数学的真理や神・自己・実体といった根源的な観念に関する生得説のことを指してこうした概念が用いられることになります。
そして、こうした生得観念と呼ばれる概念は、その思想の大本の源流へとたどっていくと、古代ギリシアの哲学者であるプラトンのイデア論における想起説についての議論へと行き着くことになると考えられることになるのです。
英語とフランス語とドイツ語における生得観念の字義上の意味
生得観念という言葉は、フランス語ではidée innés(イデー・イネ)、ドイツ語ではangeborene Ideen(アンゲボーレネ・イデーン)、英語ではinnate ideas(イネイト・イデアズ)と呼ばれるように、
それは、古代ギリシア哲学のプラトンのイデア論の思想におけるイデア(idea)の概念と深い関わりのある概念であると考えられることになります。
ちなみに、
上記のヨーロッパ系の言語の表記において、
英語のinnate (イネイト)とフランス語のinné(イネ)は、共に、ラテン語で「生まれつきの、生来の」といった意味を表す形容詞であるinnatus(インナートゥス)から派生してできた単語であり、
ドイツ語のangeboren(アンゲボーレン)も、英語のborn(ボーン、生まれる)にあたる動詞であるgeboren(ゲボーレン)に、「所属や関係」を意味する分離前つづりであるan(アン)が結合した形容詞であり、全体として「生まれつきの、先天性の」という意味を表す言葉ということになります。
したがって、
こうしたそれぞれの言語における字義上の意味からいっても、生得観念とは、すなわち、人間の認識の内に生まれながらに備わった先天的な観念のことを意味する言葉であると考えられることになります。
生得観念とプラトンのイデア論における想起説とイデアの実在性の議論
プラトンのイデア論においては、人間の魂が自らの内にある真理を知性の力によって呼び起こし、思い出すという想起説の議論に基づいて、普遍的な観念としてのイデアの実在性を論証する議論が展開されることになりますが、
こうした想起説とイデアの実在性をめぐる議論については、例えば、プラトンの中期対話篇である『パイドン』における記述では、以下のように語られています。
われわれは生まれる以前にも生まれてからすぐにも、「等しさ」…ばかりではなく、このようなものすべてを知っていたことになる。
なぜなら、今語られた議論は、「等しさ」についてばかりではなく、「美そのもの」、「善そのもの」、「正義」、「敬虔」などにも同様に関わるからである。
(プラトン『パイドン』75C)
つまり、
ここでは、人間の認識の内には「善」や「美」、「正義」、「敬虔」、「等しさ」といった普遍的な観念としてのイデアについての知が生まれながらにして備わっているということが語られているということです。
そして、
こうしたプラトンの『パイドン』などにおける想起説の議論で語られている人間の知性の内に生まれながらに備わった普遍的な観念としてのイデアの概念が、基本的にはそのまま受け継がれていく形で、
デカルトやライプニッツといった近世ヨーロッパ哲学において主張される生得観念の議論へとつながっていったと考えられることになるのです。
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以上のように、
英語ではinnate ideas(イネイト・イデアズ)、フランス語ではidée innés(イデー・イネ)、ドイツ語ではangeborene Ideen(アンゲボーレネ・イデーン)と呼ばれる生得観念という概念は、
プラトンの中期対話篇である『パイドン』において語られている想起説をめぐる議論のなかで語られているいような
人間の知性の内に生まれながらに備わった普遍的な観念として存在するとされるイデアの概念が大本の源流となって成立した概念であると考えられることなります。
そして、
こうしたプラトンのイデア論における想起説の議論がもととなって、
その後のデカルトやライプニッツにおける生得観念や、さらには、その後のカントの哲学におけるア・プリオリ(先験的)な認識形式といった概念が形成されていったと考えられることになるのです。
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次回記事:デカルトにおける生得観念の定義とは?神の存在証明に基づく無限性と完全性の観念の生得説、生得観念とは何か?②
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