心室細動と心房細動の違いとは?心房から心室への高頻度の電気的刺激の伝達が回避される仕組み

このシリーズの初回で書いたように、

不整脈の種類は大きく分けると、通常の状態よりも脈拍のリズムが速くなる頻脈と、その反対に脈拍のリズムが遅くなる徐脈という二つのタイプに大別されることになります。

そして、このうち、脈拍のリズムが速くなるタイプの不整脈である頻脈性不整脈のなかでも、最も重篤な致死性不整脈としては、

全身に血液を送り出す心室部分において、高度な頻脈が発生し、心室の心筋がけいれん状態となる心室細動という不整脈の形態が挙げられることになるのですが、

これに対して、

心筋がけいれん状態へと陥る頻脈発作の種類としては、他に、高度の頻脈状態が心房部分において発生する心房細動と呼ばれる不整脈の形態が挙げられることになります。

 こうした心室細動と心房細動という二つの不整脈は、それぞれ具体的にどのような不整脈の状態を表す言葉であり、それぞれの不整脈の形態は、互いにどのような点で異なっていると考えられることになるのでしょうか?

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心室細動と心房細動の違いと心房細動の具体的な特徴

冒頭で述べたように、

心室細動Ventricular fibrillation、略称:VF)とは、全身に血液を送り出す部分である心室部分において心筋が細かく震えるような高度の頻脈性不整脈が生じている状態のことを指す言葉であり、

いったん心室細動の状態に陥ると、心臓は無秩序な収縮を繰り返し、全身の血流がほとんど停止した状態となってしまうので、

そのまま放置すると心停止へと直結する、最も危険性の高い重篤な不整脈の形態であると考えられることになります。

それに対して、

心房細動Atrial fibrillation、略称:AF)とは、全身から血液が流れ込んでくる部分である心房部分において心筋が細かく震える高度の頻脈性不整脈が生じている状態のことを指す言葉であり、

心房細動における心房の興奮は一分間に350回から600回程度にも達することになります。

通常、心臓は、心臓の右心房の付近にある洞房結節から発せられた電気的刺激のリズムに従って1分間に60~80回程度の拍動を続け、電気的刺激が伝達されるテンポが速くなれば、それに合わせて心臓の拍動のテンポも速くなっていくことになるのですが、

伝達される電気的刺激のテンポがあまりに速くなり過ぎて、一分間に300350回を超えるようになると、

心臓を構成している心筋組織は、伝達される電気的刺激の速度に追いつくことができなくなり、心筋が十分に収縮しきることができない状態へと陥ってしまうことになります。

したがって、

心房の電気的興奮のテンポが一分間に350回から600回程度にも達する心房細動においては、

実際は、心房の拍動が速くなっているというよりは、あまりにも電気的刺激が伝達されるスピードが速くなり過ぎることによって心筋がうまく収縮することができなくなり、心房が細かく震えるようなけいれん状態へと陥ってしまうと考えられることになるのです。

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心房から心室への高頻度の電気的刺激の伝達が回避される仕組み

心房が電気的刺激の高頻度の伝達によってけいれん状態なっているとはいっても、そうした心房の電気的興奮のすべてが、全身に血液を送り出すより重要な器官である心室部分へと伝わってしまうわけではなく、

心房の高頻度の電気的興奮は、心房と心室の境目である房室結節を通過する際に、適当に間引かれる形で伝達されることになります。

心房と心室を隔てている房室結節は、電気的刺激の伝達が一分間に300回の速度を超えるような異常な速さとなると、すべての電気的刺激に対応することができなくなり、電気的刺激の一部をブロックするようになるので、

房室結節を通過した残りの電気的刺激によって、心室部分も多少頻脈傾向となり、不規則な拍動が生じてしまうことはあるものの、心室の心筋全体がけいれんを起こして全身の血流停止状態へと陥る心室細動のような命にかかわる重篤な不整脈へとつながるリスクは基本的には回避されると考えられることになるのです。

このように、心房細動自体は、直接心室細動や心停止へとつながるような致命的な不整脈の形態ではないと考えられることになるのですが、

心房細動によって全身の血流状態が一気に悪化してしまう可能性は低いものの、心房細動による心房のけいれん状態が続くと、心房内で血液の滞留が生じるようになります。

そして、

心房内で停滞していた血液がかたまって血栓を形成し、その血栓が何かの拍子に剥がれ落ちて、全身の血流に乗って脳動脈へと飛んでしまうことによって、脳梗塞といった別の致命的な疾患の原因となってしまうケースもあるので、

心房細動が長期化するケースでは、抗不整脈薬の使用や、不整脈の原因となる心房の電気回路を焼き切るカテーテルアブレーション治療による心房細動自体の除去や、血液の凝固を阻害する抗凝固薬の使用による血栓形成の防止などの措置をとることが必要となります。

・・・

以上のように、

心室細動と心房細動は、両方とも、心臓を構成する心筋組織が高頻度の電気的興奮の伝達に耐えきれなくなり、心筋が細かく震えるけいれん状態へと陥ってしまう不整脈の形態であると考えられることになるのですが、

心室細動は、全身に血液を送り出す部分である心室部分でけいれん状態が発生することによって全身の血流が停止してしまうので、直接命にかかわる最も重篤な致死性不整脈に分類されるのに対して、

心房細動の場合は、全身から血液が流れ込んでくる部分である心房部分においてけいれん状態が発生するにすぎないので、直接命に関わる危険性は比較的低い不整脈の形態とされるという点に両者の違いがあると考えられることになります。

そして、

心房細動においては、心房の高頻度の電気的興奮が心房と心室の境目である房室結節を通過する際に、電気的刺激の一部がブロックされて心室には間引かれて伝わるという心臓自体に備わった仕組みによって、

心室細動のような命にかかわる重篤な不整脈へとつながるリスクが回避されていると考えられることになるのです。

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次回記事心房細動と心房粗動の違いとは?具体的な頻脈の回数の基準と心室への電気的刺激の伝達のされ方の違い

前回記事:R on T型の期外収縮の具体的な特徴と危険性が高い不整脈である理由、一般的な不整脈の三つのタイプ⑤

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