パンは英語で何ていうの?ドイツ語やフランス語では?イギリスとフランスのパン事情とドイツの液体のパン
詳しくは、「パンの語源とは?ラテン語のパニスとローマ神話のパンの神」で書いたように、
日本語におけるカタカナ語の「パン」という言葉は、直接的には、
ポルトガル語のpão(パウン)という単語に由来する言葉なので、
アメリカやイギリスといった英語圏で「パン」と言っても、それは、
日本語における「小麦粉をこねて焼いた食品」という意味としては伝わらないことになります。
パンは英語でブレッドで、英語のパンはフライパン?
それでは、
英語では、「パン」のことを何というのか?ということですが、
一般的な意味でのパンや食パンは、英語では
bread(ブレッド)と呼ばれ、
フランスパンなら、
French bread(フレンチ・ブレッド)となります。
他にも、「パン」の形状や種類に応じて呼び方も変わっていくことになり、
焼いてトーストにしたパンは、そのままtoast(トースト)、
ロールパンのことも、そのままroll(ロール)、
ぶどうパンなら、raisin bread(レーズン・ブレッド)
ライ麦パンなら、rye bread(ライ・ブレッド)
と呼ばれることになります。
他にも、
例えば、「出来立てのパン」、「焼き立てのパン」といった表現では、
fresh bread(フレッシュ・ブレッド)や
freshly-baked bread(フレッシュリー・ベイクド・ブレッド)
などと言われることになります。
これに対して、
英語でpan(パン)と言うと、
それは、frying pan(フライパン)やstew pan(シチュー鍋)といった
底が浅い平なべや長めの柄が付いた片手鍋のことを意味することになるので、
お店で「パンをください」(I would like to buy a pan.)と言ったら、
小麦粉をこねて焼いたお馴染みの食品が出てくる代わりに、
「パン」など自分で作ってこれで焼け!と言わんばかりに、
ドーンとフライパンが出てくることになってしまうかもしれません。
イギリスとフランスのパン事情とドイツ語における液体のパン
それでは、フランス語やドイツ語といった他のヨーロッパ言語では、
「パン」はどのような単語になるのか?というと、
例えば、カタカナ語の「パン」の直接の語源にもなっているポルトガル語と同じ
ロマンス諸語(ラテン系言語)に属する言語では、「パン」は、
フランス語ではpain(パン)
イタリア語ではpane(パネ)
スペイン語ではpan(パン)
というように、どれも”pa-“で始まる単語として表記されることになります。
それに対して、
ゲルマン語派に属する言語では、「パン」は、
英語ではbread(ブレッド)
ドイツ語ではBrot(ブロート)
オランダ語ではbrood (ブロート)
というように、”br-“で始まる単語として表記されることになります。
ところで、
フランス発祥の「パン」というと、
砂糖を使わずに、小麦粉と塩と水とイースト(酵母)というシンプルな材料のみで焼き上げる堅い棒状のパンであるフランスパンや
バターを多く使って三日月形に焼いた
クロワッサンなどが有名ですが、
フランス語におけるこれらの「パン」の表記は、
クロワッサンは、そのままcroissant(クロワサン)となり、
フランスパンは、棒状のパンという意味でbaguette(バゲット)と呼ばれることになります。
※ちなみに、クロワッサンの起源については諸説あり、オーストラリアやハンガリーを起源とする説もあるのですが、少なくとも、現代人にお馴染みのパイ生地が何層にも重ねられたバターたっぷりのクロワッサンが誕生したのは、19世紀初頭のパリであり、フランスが発祥の地ということになります。
そして、前述したように、
英語では、食パンのことは単にbread(ブレッド)と呼んで、
フランスパンのことは、フランス式のパンという意味で、
French bread(フレンチ・ブレッド)と呼びますが、
これとは対照的に、
フランス語では、フランスパンの方を単にbaguette(バゲット)と呼んで、
いわゆる食パンの中でもふんわりと山型に焼いたパンのことを指して、
イギリス式のパンという意味で、
pain anglais(パン・アングレ)と呼ぶことになります。
※“anglais“(アングレ)は、「イギリスの」を意味する形容詞
例えば、日本語においても、
「琴」や「シソ」、「花札」といった言葉が、
英語では、それぞれ、
“Japanese harp“(日本式のハープ)、
“Japanese basil“(日本風のバジル)、
“Japanese playing cards“(日本式のトランプカード)
といった表記で示されることがありますが、
当の日本国内においては、
わざわざ「日本式の」(japanese)という表現を加えなくても
それらの文物が日本の文化や生活様式に根差したものであることは
十分わかりきったことなので、
通常は、上記のような「日本式の○○」といった表現が
当の自国内で用いられることはほとんどないと考えられることになります。
これと同様に、
イギリスやフランスにおいても、それぞれの国で一般的なパンの種類となっているbread(ブレッド)やbaguette(バゲット)については、わざわざ自国名が記されることはないのに対して、
自国ではなく相手の国に由来する特徴的なパンの種類のことを指して、
「フランス風の」(French~)、「イギリス式の」(~anglais)というように、互いに呼び合っていると考えられることになるのです。
・・・
最後に、
それでは、ドイツ語の方では、
何か特徴的な「パン」に関する表現はないのか?というと、
例えば、
ドイツ語で「ビール」のことは、Bier(ビーア)という表記の他に、
flüssiges Brot(フリュッスィヒゲス・ブロート)とも呼ばれることがあります。
“flüssig“(フリュッスィヒ)とは、「液体の」を意味する形容詞であり、
“Brot“(ブロート)は、前述したように「パン」を意味する単語なので、
“flüssiges Brot“は、すなわち、「液体のパン」という意味を持つ言葉ということになります。
「パン」が小麦を粉にしたものを水でこねて酵母で発酵させてから焼くことによって作られる食べ物であるのと同様に、
「ビール」も小麦と同じ麦の一種である大麦の麦芽を粉にしたものを水に入れて発酵させることによって作られる飲み物なので、
いわば、麦を発酵させた食べ物である「パン」の液体版が「ビール」であるとも考えられることになるのです。
このように、ドイツ語の表記に基づくと、
ビールは「パン」の一種であるという解釈も成り立つことになるので、
ビールは単なるお酒ではなく、それはむしろ、
「パン」のような主食に近い飲み物であると言い張ることもできなくはないのですが、
そう言ってみたところで、ビールがアルコール飲料であることに変わりはないので、
こうした理由にかこつけて、あまりビールをがぶ飲みして飲み過ぎてしまうのはやめた方がよさそうですね。
・・・
関連記事①:フライドポテトは英語でなんていうの?ドイツ語やフランス語では?
関連記事②:パンの語源と由来とは?ラテン語のパニスの意味とローマ神話のパンの神
関連記事③:クロワッサンの起源と由来とは?二つの伝承とキプフェルそしてイスラム教諸国との関係
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