エンペドクレスにおける宇宙の渦動運動とアインシュタインの振動宇宙論、エンペドクレスの宇宙観③
宇宙は、万物の究極の結合状態である
スパイロス(真球)に始まり、そこから互いに分離し拡散していった四元素が再び一なるスパイロスへと還っていくことで終焉を迎えると考えられることになるのですが、
こうした一なるスパイロスへの回帰は、
再び新たな宇宙創成へとつながっていくことになり、
宇宙は、こうした四元素の集合と離散の間を行き来する
循環運動の内に捉えられることになります。
「愛」と「争い」がもたらす渦動運動による宇宙の永遠の循環
このシリーズの初回から考えてきたように、
エンペドクレスによると、
宇宙全体は「万物の四根」と呼ばれる四元素と、
「愛」と「争い」と呼ばれる引力と斥力(反発力)の原理によって
周期的に変化し続けていて、
引力である「愛」の力が強まっていく宇宙の混合過程においては、
すべての存在が一なるスパイロスへと収束していくことになるのですが、
いったん宇宙が究極の混合状態であるスパイロスの状態へと収束すると、
それを契機として、その反動から、今度は斥力である「争い」の力が強まっていくことになります。
そして、
こうした「争い」としての斥力がもたらす宇宙の分離過程においては、
万物の四根は、渦を巻きながらその遠心力によってバラバラに離散していき、
四元素が互いに完全に分離した拡散状態へと陥っていくことになるのですが、
「争い」の力が極限まで高まり、宇宙が究極の分離状態にまで至ると、
今度はそれが契機となって、引力である「愛」が徐々にその勢力を回復していくことになります。
「争い」が宇宙の外縁部で暴威をふるっているうちに
「愛」は、その反対に、渦動運動の中心部へと移動していくことになるのですが、
そうした渦動運動の中心部から発せられる引力としての「愛」の力が
宇宙に逆向きの渦動運動を与えることによって、今度は求心力によって万物の四根を一なる中心へと引き寄せていくことになり、
再び一なるスパイロスへの糾合と統一を目指す宇宙の混合過程が始まっていくことになるのです。
以上のように、
一なるスパイロスから始まった宇宙は、「争い」がもたらす渦動運動の遠心力によって互いに分離し、拡散していくのですが、その力が極限まで達すると、
今度は、「愛」がもたらす逆向きの渦動運動の求心力によって互いに引きつけられ、再び一なるスパイロスへと還っていくことになります。
そして、
このようなエンペドクレスの宇宙論においては、
宇宙は、「愛」と「争い」がもたらす渦動運動によって
混合と分離、収束と拡散という周期的な運動を永続的に繰り返していくという
永遠の循環の内にある存在として捉えられることになるのです。
エンペドクレスにおける宇宙の循環とアインシュタインの振動宇宙論
そして、
こうした渦動運動に基づいて、宇宙全体が一なるスパイロスへの収束とそこからの拡散という周期的な運動を永続的に繰り返す永遠の循環の内にあるという思想は、
現代物理学における宇宙論の一つである振動宇宙論にも通底する思想として捉えることもできると考えられることになります。
1930年にアインシュタインによって提唱された
可能的な宇宙構造のあり方の一つである振動宇宙論(oscillatory universe theory、オシラトリー・ユニバース・セオリー)においては、
宇宙は当初、その始まりであるビッグバン(Big Bang)のエネルギーによって
どんどん膨張し続けていくことになります。
しかし、
宇宙の拡散していく力が徐々に弱まっていき、相対的に物質同士の間に働く重力による引力の方が強まり、これを上回るようになると、
宇宙全体の運動は、拡散から収束へと転換することになります。
そして、
いったん拡散から収束へと転じた宇宙全体の運動においては、
宇宙が収縮していき、銀河や星々などを構成している物質同士が互いに近づいていくにしたかって、その間で働く引力の力も加速度的に増大していくこととなり、
その収縮運動の最後には、宇宙は、ビッグクランチ(Big Crunch) と呼ばれる
無限小の点でありながら、無限大の質量とエネルギーを持つ特異点へと一気に収束することになるのです。
ビッグバン(Big Bang)が宇宙の創世を成す大爆発を生み出した特異点であるとするならば、
その対極に位置する特異点であるビッグクランチ(Big Crunch) は、
宇宙の終焉にして一つの破局である大破砕点として捉えられることになります。
そして、
宇宙の終焉であるビッグクランチは、新たな宇宙の創成であるビッグバンへと
再びつながっていくことになるのです。
・・・
以上のように、
エンペドクレスの哲学思想においては、
「愛」と「争い」と呼ばれる引力と斥力のバランスの周期的な変化によって宇宙に渦動運動がもたらされ、
宇宙全体が一なるスパイロスへの収束とそこからの拡散という周期的な運動を
永続的に繰り返す永遠の循環の内にあるという宇宙観が展開されていくことになります。
そして、
それは、遠く、現代物理学におけるアインシュタインの振動宇宙論にもつながる思想であると捉えることもできると考えられるのですが、
こうしたエンペドクレスにおける宇宙の循環の思想は、
さらに、宇宙全体の永劫回帰と宇宙自体の輪廻転生の思想へも
つながっていくと考えられることになります。
・・・
このシリーズの前回記事:宇宙の終着点であり新たな宇宙創成の開始点でもあるスパイロス(真球)、エンペドクレスの宇宙観②
このシリーズの次回記事:魂の輪廻転生と宇宙全体の永劫回帰の内に円環を結ぶ宇宙、エンペドクレスの宇宙観④
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