全国一斉休校の要請が危機管理と防衛戦略の観点から見て新型コロナウイルスの感染拡大防止のために適切である理由
2月27日に安倍首相が宣言した日本全国における小学校・中学校・高校などのすべての学校の3月2日から春休みまでの全面的な一斉休校の要請という一つの大きな政治判断を受けて、
日本社会全体では大きな混乱と、この政治判断に対する賛否両論の意見が激しく取りざたされているが、
筆者の意見としては、今回政府がおこなった全国一斉休校の要請は、今まで、中国を中心とする新型コロナウイルス感染が拡大している地域からの外国人の渡航制限の措置などの点において、
常に場当たり的で後手後手に回る対応を続けてきたように見える日本政府がほとんど初めて行ったとも言える先手の対応となる政治判断として肯定的に評価することができると思う。
新型コロナウイルスに対する一斉休校の措置の効果とその弊害
新型コロナウイルスの感染拡大の防止のために一斉休校の措置がどの程度有効であるのかというこの措置の効果自体を疑問視する声もあるが、
コロナウイルスとある程度似通った特徴を持つインフルエンザが学校生活を通じて子供たちの間に蔓延して、帰宅した子供たちからの家庭内感染を通じて社会全体の流行へとつながっていくケースが多いことから言っても、
感染拡大の予防措置としては一定の効果があると考えられる。
もちろん、今回の一斉休校だけに限らず、渡航制限やイベントの中止などといった感染拡大の防止のために行われる強い措置は、その反動として、経済活動や市民生活を阻害するという大きな弊害をもたらすことになる。
今回の一斉休校の要請においては、低学年の子供を育てている共働きや一人親の世帯を中心に、子供を預けておく場所がなくなることによって仕事に出勤できなくなるといったことが問題となっていて、
その影響は、病院に勤めている一部の看護師や介護士などが出勤できなくなることによって医療の現場にまで早くもはね返っている。
しかし、それでも、
北海道を中心に実際に国内でどこまで感染拡大が広がっているかという実態すら正確にはつかめていない現状においては、
まずは、経済活動への直接的な参加の度合いが低い子供たちの動きを止めて自宅待機をうながすことによって、少しでも感染拡大の機会を減らそうとすることは必要な措置であると考えられる。
危機管理と防衛戦略の観点から見て全国一斉休校の要請が適切である理由
危機管理はしばしば軍事作戦や防衛戦略とも非常に似通った側面を持つ。
正体不明の飛行物体が四方八方から日本の領空に接近してくるとしたら、とりあえずは、動員可能なすべての戦闘機を出動させて全力で領空の警戒にあたることが必要である。
後になって、実はそれがただの鳥の大群だったと分ければ、大袈裟な対応だったとか国費と燃料の無駄遣いだとか非難や罵声を浴びせられることになるが、
その反対に、仮にそれが敵国の新兵器による奇襲攻撃だった場合、動員可能な戦力をケチってわずか数機の戦闘機しか出撃させなかったために首都が壊滅したといった事態になればそれこそ後の祭りである。
危機管理や防衛戦略において戦力の逐次投入ほど愚かな判断はなく、その反対に未知の脅威に対してはできるだけ早期に最大限の危機を想定したうえで、その危機に対応できるだけの十分に強力な措置を最初に講じておき、
後になって、思ったよりもその危機がたいしたことがないと分かってきたら、その後の状況に合わせて徐々にその措置を緩めていく方がいい。
この場合の正体不明の飛行物体とは人類にとっていまだ未知の脅威であり続けている新型コロナウイルスであり、戦闘機とは渡航制限や一斉休校さらには外出禁止令や都市封鎖といった政府がとることが可能な強力な防疫措置のことを意味している。
(ただし、いくら強力な防疫措置とはいっても都市封鎖といった段階にまでなると、通院や生活必需品の入手といった市民の生存維持に必要な活動までが阻害されてパニックを誘発することもあるので一定の限度とバランス感覚は必要である。)
いずれにしても、
全国一斉休校の要請という今回政府が下した一つの大きな政治判断によって、
日本全国における新型コロナウイルスに対する危機感のモードが一挙に転換され、国民全体に強い危機意識が共有されたことは確かである。
そうした集合的無意識のレベルでの国民全体の強い危機感の共有によって、間接的には、翌日に発表された東京ディズニーランドやディズニーシーやUSJといった大人数が集まりやすい大規模娯楽施設などの休園や休館や北海道の緊急事態宣言の決断といった事態にもつながっていったと考えられる。
以上のように、
全国一斉休校という最も強い施策を最初に打ち出して社会全体に強いメッセージを発信してから、その後の状況に合わせて徐々に規制の範囲を緩めていくことによって事態に柔軟に対応していこうとする今回の政府の政治判断は、
少なくとも新型コロナウイルスという未知の脅威に対する危機管理や防衛戦略という観点からは肯定的に評価することができると考えられる。
・・・
次回記事:中国よりも韓国に対して渡航制限を行うのが新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために現在の状況では必要な理由
前回記事:新型コロナウイルスのウイルス検査数を過度に増やすと感染爆発を誘発する三つの理由
「時事考察」のカテゴリーへ
「新型コロナウイルス」のカテゴリーへ