マオリ神話における光と闇そして天と地との関係、天空が闇の世界へと大地が光の世界へと結びつけられる理由
前回の記事で書いたように、南太平洋の島々において広く語り伝えられてきたポリネシア神話、そのなかでも、ニュージーランドの先住民にあたるマオリ族の神話における天地創造の物語においては、
そうした天地創造の過程で現れる二つの暗闇の世界のうちから二段階にわたって現在の世界の形がつくり上げられていくことになっていったということが示されていると考えられることになるのですが、
こうしたマオリ族の神話における天地創造の物語における暗闇の位置づけのあり方からは、マオリ神話における光と闇、そして、天と地といった概念についてのある種独特の捉え方を読み解いていくことができると考えられることになります。
マオリ神話における暗闇と天空(ランギ)との関係
冒頭でも述べたように、マオリ神話の天地創造の物語においては、
天と地が生まれる前の原初の宇宙における暗黒(テ・ポー)や虚空(テ・コレコレ)とも呼ばれる暗闇の世界と、そうした原初の暗闇のうちから生まれた天と地の隙間の暗闇という二つの暗闇の世界のうちからの二段階にわたる光の世界の誕生を通じて現在の世界の形がつくり上げられていくことになるのですが、
こうしたマオリ神話において語られている暗黒や暗闇と呼ばれる世界の存在は、必ずしも、善に対する悪といった負の領域のことを意味しているわけではなく、
そうした原初の宇宙における暗闇の世界は、すべての存在がその内から生まれることになった潜在的な力をもつ根源的な存在としても捉えられていると考えられることになります。
そして、こうしたマオリ族の神話においては、
天と地はどちらもそうした原初の宇宙における潜在的な暗闇の世界のうちから誕生したと語られている一方で、
そうして生まれた天と地の両者のうち、
大地の母にあたるパパ(Papa)は現実の世界が存在する光の世界へと結びつけられていくことになるのに対して、
天空の父にあたるランギ(Rangi)はその対極に存在する闇の世界へも再び結びつけられていくことになると考えられることになるのです。
天空が闇の世界へと大地が光の世界へと結びつけられる理由
それでは、いったいなぜ、こうしたマオリ族の神話においては、
天空や天界といった一般的な世界観や宗教観においては光に満ちた神々しい存在として位置づけられるはずの領域が、むしろその対極に位置する暗闇の世界へと結びつけられていくことになってしまうのか?ということについてですが、
それについては、
マオリ神話において語られている光の世界とは、基本的には、太陽の光によって照らし出された地上の世界が存在する目に見える物理的な世界のことを意味しているのに対して、
そうした目に見える物理的な世界としての光の世界の背後に存在していると考えられる不定形で潜在的な状態として存在するある種の精神的な存在あるいは霊的な世界のあり方が暗闇や暗黒といった概念として捉えられているという点が挙げられることになると考えられることになります。
つまり、こうしたマオリ族の神話においては、
地上における物理的な世界といった目に見える領域を光とするならば、それ以外の目に見えないすべての領域は闇の世界のうちへと位置づけられていくことになるという意味において、
目に見える地上の世界を司ることになる大地の母にあたるパパ(Papa)は、自然界における生命の調和によって満たされた光の世界へと結びつけられていくことになるのに対して、
目に見えない天空の世界を司ることになる天空の父にあたるランギ(Rangi)は、不定形で潜在的な力を持った霊的な存在によって満たされた闇の世界へと結びつけられていくことになると考えられ、
こうしたマオリ神話に基づく世界観においては、
原初の宇宙における暗闇の世界からの光の世界の誕生を通じて生まれたはずの天空の世界が、そうした潜在的な力を持った霊的な存在といった概念を通じて目に見えない暗闇の世界のうちへと再び結びつけられていくことになるというように、
光と闇、そして、天と地といった概念が、善と悪の対立といった単なる二項対立的な関係を超えて、より複雑な形で絡み合っていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:マオリ神話における死の起源とは?夜明けの女神と死の女神としての二面性を持つヒネ・ヌイ・テ・ポーの誕生と変身
前回記事:マオリ神話における天地創造の物語とは?二つの暗闇の世界からの生命と光の世界の誕生と天空の父ランギと大地の母パパ
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