マオリ神話における死の起源とは?夜明けの女神と死の女神としての二面性を持つヒネ・ヌイ・テ・ポーの誕生と変身
前々回の記事で書いたように、南太平洋の島々において広く語り伝えられてきたポリネシア神話、そのなかでも、ニュージーランドの先住民にあたるマオリ族の神話における天地創造の物語では、
ランギ(Rangi)と呼ばれる天空の父と、パパ(Papa)と呼ばれる大地の母に象徴される天と地の交わりによって生み出されたはじまりの世界においては、新たに生まれた神々や生き物たちは、天と地の隙間の暗闇のうちに閉じ込められた状態のまま時を過ごしていたとされていて、
そうした天と地の間に生まれた息子にあたるターネ(Tāne)と呼ばれる森と生命の神によって天と地が引き離されていくことによって光と生命に満ちた現在の世界が生まれていくことになったと語られていくことになるのですが、
こうしたマオリ神話における森と生命の神からは、夜明けの女神と死の女神としての二面性を持つ女神が生み出されていくことになると考えられることになります。
最初の女性ヒネ・アフ・オネと夜明けの女神ヒネ・ティタマの誕生
マオリ神話において、天と地とを分かつことによって世界に光をもたらし、森とそこに生きるすべての生き物たちの支配者となった男神ターネは、その後、自らの妻となる女神を探して世界のうちを放浪していくことになるのですが、
世界のうちのどこにも自分と似た姿をした相手を見つけることができなかったターネは、自らが持つ命の力を使って、
のちにポリネシア人の古の故地として位置づけられることになるハワイキ(Hawaiki)の地の浜辺の美しい赤土から自分の姿に似せた女性を創り上げることになり、
ヒネ・アフ・オネ(Hine-ahu-one)と呼ばれるこの女性は、マオリ神話における最初の女性として位置づけられることになります。
そして、その後、
森と生命の神であるターネとヒネ・アフ・オネの間には、ヒネ・ティタマ(Hine-tītama)という名の美しい女神が生まれることになり、
彼女は、暗闇に閉ざされていた夜が明けて地上に新しい朝の光が差し込んでいく暁の時を司る夜明けの女神として位置づけられていくことになるのです。
マオリ神話における死の起源と死の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポーへの変身
しかし、やがて、
美しい女神へと成長していく自分の娘であるヒネ・ティタマの姿を目にしたターネは、彼女のことをも自分の妻にしたいと考えて、
自分の素性を隠したまま彼女と結婚してしまい、二人の間には現在の人間へとつながる子供たちが生まれていくことになります。
そして、その後、
自分の出生の真実を知ることになったヒネ・ティタマは、それまで自分のことを騙してきた生命の神ターネのことを憎んで、そのもとから遠く離れていこうとひとり闇の世界のうちへと落ちていくことになり、
テ・ポー(Te Pō)とも呼ばれる暗闇の世界のうちへと落ちたヒネ・ティタマは、ヒネ・ヌイ・テ・ポー(Hine-nui-te-pō)と名を変えていくことによって、夜と死を司る女神へと姿を変えていくことになります。
そして、
こうしてヒネ・ヌイ・テ・ポーと呼ばれる夜と死の女神へと姿を変えていくことになった彼女は、自分のことを騙していた森と生命の神であるターネを深く憎むことによって、
二人の間に生まれた呪われた子孫たちを生命と光が閉ざされた闇の世界のうちへと引き込んでいくことになり、それによってこの世界のうちに死が生まれることになったと語られていくことになるのです。
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次回記事:マオリ族の死生観とは?マオリ神話に基づく霊的な生命に満ちた根源的な世界への回帰としての死と人類の原罪に基づく死の解釈
前回記事:マオリ神話における光と闇そして天と地との関係、天空が闇の世界へと大地が光の世界へと結びつけられる理由
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