日本人が台風や津波などの災害時に避難が遅れやすい心理学的な三つの理由とは?仏教的な悟りへも通じる諦観の境地
前回の記事で書いたように、地震や津波、台風や火事といった天災や災害などの緊急事態において、頭では危険が迫っていることが分かっていても、実際の避難行動が遅れてしまう理由としては、
正常性バイアスや同調バイアスといった人間の心理傾向に起因する認知のゆがみのあり方がそうした心理学的な原因のうちの一つとして挙げられることになると考えられることになりますが、
その一方で、
日本人全体の国民性として、そうした台風や津波などの災害時に避難が遅れやすいということに関する心理学的な理由を考えていく場合には、
こうした正常性バイアスや同調バイアスと呼ばれる認知のゆがみのあり方の他にも、ある種の仏教的な悟りのあり方へも通じるような諦観の境地とも呼ばれるような心の状態のうちに、その根本的な原因を求めていくこともできると考えられることになります。
正常性バイアスと同調バイアスを原因とする一般的な説明に基づく災害時における避難の遅れ
日本人が台風や津波などの災害時に避難が遅れやすい傾向があると考えられる具体的な理由について、心理学的な観点から考察していくと、
そもそも、
古来より地震や津波、台風や洪水や火山の噴火、さらには、火事や土砂崩れなどといった数多くの天災や災害に頻繁に襲われてきた日本人にとっては、
そうした頻繁な災害に対するある種の慣れが生じていってしまうことによって、命に関わる危険性の高い重大な危機が迫っている場合でも、
今までと同じように大したことは起こらないだろうと日常生活における正常な出来事の範囲内にある事態として判断しようとしてしまうという正常性バイアスと呼ばれるような心理状態がつくり出されやすいと考えられることになります。
また、
周りの人々との協調性や社会的な秩序を重視する傾向が強いとされる日本人の国民性からいっても、
地震や津波などの災害時に、自分ではそろそろ避難しようかと考えていても、周りの人々がまだその場にとどまっているのを見ると、まだ大丈夫かもしれないと考えて、
結果として、避難しようとする行動を無意識のうちに互いにけん制し合ってしまうことによって、避難行動が遅れてしまうといった同調バイアスと呼ばれるような心理状態も働きやすいと考えられることになります。
このように、一般的には、
日本人の国民性に基づいて、台風や津波などの災害時に避難が遅れやすい傾向があるということの具体的な理由を説明していこうとする場合には、
地震や津波や台風などといった日頃から頻繁に経験している自然災害に対する慣れから生じていくことになる心理状態である正常性バイアスや、
周りの人々との連帯感や協調性を重視する集団心理のことを意味する同調バイアスといった観点から、そうした理由が説明されることが多いと考えられることになるのです。
日本人全体の無意識に共有されている仏教的な悟りへも通じる諦観の境地
しかし、その一方で、
こうした正常性バイアスや同調バイアスと呼ばれるような一時的な認知のゆがみのあり方だけではなく、
日本人全体の無意識のうちに共有されているようなより深い心の領域についても目を向けていく場合には、
別の観点からも、そうした自らの身に差し迫った危険が生じている災害時などの異常事態において、あえて避難行動をとろうとしない人がいる理由についての説明を行っていくこともできると考えられることになります。
前述したように、古来より地震や津波、台風や洪水や火山の噴火といった自然災害に繰り返し頻繁に見舞われ、さらには、時には戦争による大きな被害などにも見舞われてきた日本人は、
そうした災害や戦争によってもたらされた重大な被害に対して、あまり強く抵抗しようとしたり、敵国に対する根深い復讐心を抱いたりすることなく、
むしろ、そうした被害のすべてをこうした地震や台風などの災害の多い国に生まれた以上は仕方がないこととして受け入れたうえで、過去に自分たちが受けた被害についても必要以上に心を囚われることがなく、
残された者たちの新たな生活と復興へと向けて国民の力を全力で注いでいくことによって、そうした大きな被害や悲劇を建設的な力へと変えて乗り越えてきたと考えられることになります。
そして、そういった意味では、
自分たちが暮らしている地域が実際に大きな災害に見舞われることになり、自分の命を守り確実に危険を避けるためには、一時的あるいは長期的な避難が必要であることが分かっている場合でも、
そうしたことをすべて承知して、深く理解したうえでもまた、あえて、自分たちが代々住み慣れてきた土地を離れずに、自らの身に降りかかる危険性のある被害をすべて受け入れてしまうといった、
ある種の仏教的な悟りの境地にも通じるようなあきらめや諦観とも言えるような心の状態から、あえて避難を拒否しているといったケースもあると考えられることになるのです。
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以上のように、
日本人全体の国民性として、台風や津波などの災害時に避難が遅れやすい傾向があると考えられる心理学的な理由としては、
地震や津波や台風などを頻繁に経験していることからくる自然災害に対する慣れから生じてしまうことになる正常性バイアス、
周りの人々との連帯感や協調性を重視する国民性に由来して生じていってしまうことになると考えられる同調バイアス、
そしてさらには、そうした自らの身に降りかかる危険性のことをすべて正しく理解したうえで、それでもなお、あえて、自分たちが住み慣れた土地を離れようとせずに、自らの身に降りかかる危険性のある被害をすべて受け入れてしまうというある種の仏教的な悟りのあり方へも通じるような諦観の境地、
といった全部で三つの心理学的な理由を挙げていくことができると考えられることになるのです。
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