正常性バイアスと同調バイアスの違いとは?個人的な経験の積み重ねと集団心理を原因とする認知のゆがみのあり方の区別
地震や津波、台風や火事などといった天災や災害などが起こった際に、すぐに適切な避難行動をとっていれば助かったはずなのに、
危険が迫っているといった情報自体は伝わっているにもかかわらず、避難が遅れて命を落としてしまうといったケースへとつながってしまうことがある個々の避難者における判断の遅れや誤りの原因は、
心理学的な観点からは、主に、正常性バイアスや同調バイアスといった認知バイアス、すなわち、認知のゆがみや心理傾向のあり方といった観点から説明されていくことになります。
それでは、
こうした正常性バイアスと同調バイアスと呼ばれる二つの認知のゆがみのあり方は、それぞれ具体的にどのような特徴を持った心理傾向のあり方であると考えられ、両者の違いはどのような点にあると考えられることになるのでしょうか?
正常性バイアスとオオカミ少年の寓話
そうると、まず、
こうした正常性バイアスと同調バイアスと呼ばれる二つの認知のゆがみのあり方のうち、前者の
正常性バイアス(Normalcy bias、ノーマルシー・バイアス)という言葉は、一言でいうと、
災害や事件などの異常事態に直面しても、自分がそれまでに経験してきた日常生活における正常な出来事の範囲内にある事態であると判断して平静を保とうとする人間の心理傾向のことを意味する言葉として定義することができると考えられることになります。
例えば、
イソップ物語におけるオオカミ少年の寓話においては、
本当はまだオオカミが来ていないにも関わらす、日常的に「オオカミが来た!」「オオカミが来た!」と騒いでいたら、実際にオオカミが襲ってきた時に、誰も少年の叫び声に反応して駆けつけてきてくれずに、そのまま村のヒツジがすべてオオカミに食べられてしまうことになってしまったといった話が出てきますが、
こうしたオオカミ少年の話のように、実際には誤報であるとまでは必ずしも言えない場合でも、地震や災害による被害を警告する情報に頻繁に接しても、実際にはあまり大きな被害が出ていないといった状況が日常的に繰り返されていくと、
かえってそうした地震や災害の情報に慣れっこになってしまって、本当に大きな危機が迫っている場合でも、どうせ今回もいつも通りに大したことは起こらないだろうと考えて避難行動が遅れてしまうといったケースがあると考えられることになります。
そのため、
こうした正常性バイアスによって避難行動の遅れなどが生じてしまうケースでは、その土地にまだ不慣れな旅行者や観光客などといった人たちが行政の指示通りにいち早く非難を開始して被害に遭わずに事なきを得ることになる一方で、
かえって、その土地の地理や現状についてよく精通していて避難ルートなどについてもよく心得ているはずの地元の住民たちの方が逃げ遅れて大きな被害に遭ってしまうといったケースも出てきてしまうことになると考えられることになるのです。
同調性バイアスといじめがエスカレートしていく集団心理
そして、それに対して、後者の
同調バイアスあるいは多数派同調バイアス(majority synching bias、マジョリティー・シンキング・バイアス)とは、一言でいうと、
自分自身の個人的な考えや判断とは違う場合でも、自分の周りにいる人々の多数派の意見に同調して、協調的な行動をとることによって集団の一員としての安心感を得ようとする心理傾向のことを意味する言葉として定義することができると考えられることになります。
そして、こうした同調バイアスと呼ばれる認知のゆがみのあり方は、
例えば、
一人一人の子供たちは、相手に対して危害を加えたいといった大きな悪意を持っていない場合でも、自分の周りの子供たちが特定の相手をターゲットとしてからかったり、ちょっかいを出したりしているのを見ているうちに、
そうした周りの子供たちやクラス全体の雰囲気に同調して、いじめのグループへと積極的に参加していってしまうことがあるというように、
クラス全体でいじめがエスカレートしていってしまうようなケースなどにおいて、多く見られる認知のゆがみのあり方であると考えられることになります。
そして、
こうした同調バイアスあるいは多数派同調バイアスと呼ばれる認知のゆがみのあり方が、災害や事件などの異常事態における避難行動の際に現れてしまう場合では、
避難者が自分一人でいる場合にはすぐに危険を察知して逃げ出したくなるような状況にあっても、自分の周りにいる人々が前述した正常性バイアスなどによってすぐに避難を開始せずにその場にとどまっている場合などには、
そうした周りの人々の行動に同調することによって、個人的なレベルにおいては正常性バイアスによる認知のゆがみの影響を受けていなかった人でも、避難が遅れてしまうといったケースが出てくることになると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
こうした正常性バイアスと同調バイアスと呼ばれる二つの認知のゆがみのあり方の具体的な特徴の違いとしては、
前者の正常性バイアスは、日常生活のなかで繰り返されていくことになる個人的な経験や習慣の積み重ねによって強化されていくタイプの認知のゆがみのあり方であるのに対して、
後者の同調性バイアスは、現在の時点において自分の周りにいる人々と同じ行動をとろうとする集団心理によって引き起こされていくタイプの認知のゆがみのあり方であるといった点に、両者の違いがあると考えられることになります。
そして、実際の災害現場においては、
こうした正常性バイアスや同調バイアスといった認知のゆがみのあり方が、互いに複雑に絡まり合うことによって、避難のための適切な行動がとれなくなるといたった事態が生じていってしまうことになると考えられることになるのです。
・・・
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