虫媒花の英語における表現と蟲愛づる姫君との関係、古代ギリシア語を語源とする「虫を愛する者」としての虫媒花のイメージ

虫媒花とは、花の蜜や花粉そのものを食べるチョウミツバチなどといった昆虫の媒介によって花粉の受粉が行われる花や植物のグループのことを意味する言葉ですが、

今回の記事では、こうした虫媒花という言葉の英語における表現のあり方について詳しく考察していくなかで、

平安時代の日本において書かれた古典作品にあたる『堤中納言物語』のなかに出てくる蟲愛づる姫君と呼ばれる姫君のイメージとのちょっとした関連性についても詳しく考えていきたいと思います。

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英語における虫媒花の表現と「虫を愛する者」を意味する古代ギリシア語の語源

まず、

こうした日本語における虫媒花という言葉は、英語においては、

entomophilous flower(エントモフィラス・フラワー)、または、

insect pollinated flower(インセクト・ポリネーテド・フラワー)といった言葉として表現されることになりますが、

このうち、

後者のinsect pollinated flowerという言葉は

英語においてinsect(インセクト)とは「昆虫」や「虫」を意味する名詞であり、pollinateという動詞の名詞形にあたるpollination(ポリネーション)「受粉」や「花粉媒介」のことを意味する言葉であるように、

それは、そのまま「昆虫を媒介として受粉が行われる花」すなわち虫媒花のことを意味する言葉として捉えることができると考えられることになります。

そして、それに対して、

前者のentomophilous flowerという言葉に用いられるentomophilousという形容詞の名詞形にあたるentomophily(エントモフィリー)という単語は、

もともと語源的な意味においては、

古代ギリシア語において「虫」のことを意味するντομαentoma、エントマ)という単語と、「愛」のことを意味するφιλίαphilía、フィリア)という単語が結びつけられることによってできた言葉であると考えられることになります。

つまり、そういった意味では、

こうした英語において虫媒のことを意味するentomophily(エントモフィリー)という言葉は、そうした言葉自体の大本の意味においては、「虫への愛」あるいは「虫を愛する者」といった意味を表す言葉として捉えることができると考えられ、

英語の表現においては、こうした虫媒花に分類される花たちが、虫たちの目を引く美しく花を咲かせたり、甘い蜜の香りを漂わせたりすることによって、虫を自分たちのもとへと引き寄せているように見えるため、

そうした花粉の運び手となる虫を愛して自分のもとへと引き寄せるような振る舞いを見せる花や植物たちのことを指して、

こうしたentomophilous flower(エントモフィラス・フラワー)という表現が用いられていると考えられることになるのです。

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「虫媒花」のイメージと「蟲愛づる姫君」のイメージとの共通点

そして、

こうした「虫を愛する者」といったイメージからは、平安時代後期に書かれた日本の古典文学を代表する短編物語集の一つである『堤中納言物語』に出てくる「蟲愛づる姫君」と題される話のなかで登場する少し風変わりな姫君のイメージが連想されることになると考えられることになります。

「蟲愛づる姫君」の中では、姿形は美しい姫君なのに、とにかく虫を取り集めることが大好きで、籠の中に奇妙な姿をした虫を入れては、その虫たちを一日中眺めてこれを愛でているために、

周りの人々から気味悪がられて、貴族の男性たちも寄り付かないようになってしまっていることをからかわれたり、残念がられたりしているお姫様の話が語られていくことになるのですが、

ちなみに、

キクバラユリチューリップなどに代表されるような虫媒花と呼ばれる美しい花を咲かせる植物たちのもとへと引き寄せられていく花粉の運び手となる虫たちには、必ずしも、

アゲハチョウモンシロチョウなどといった美しい姿形をした虫たちだけが選ばれているわけではなく、

そうした美しい姿形をした虫媒花のもとへと引き寄せられて花粉の運び手となる虫たちのなかには、クロバエハナアブなどといったハエ(蠅)アブ(虻)スズメガヤガといったガ(蛾)に分類されるようなどちらかというとあまり美しくはない、あるいは、むしろ汚いイメージのある虫たちや、

ゾウムシと呼ばれる象の鼻のような形に伸びた奇妙な口部の形状をした甲虫などのように奇怪な姿をした虫たちの種族も数多く含まれていると考えられることになります。

そして、そういった意味においても、

こうした「虫を愛する者」としての虫媒花のイメージには、平安時代を代表する日本の古典作品の一つである『堤中納言物語』に出てくる「蟲愛づる姫君」のイメージとどこか共通するようなイメージが含まれているとも捉えることができると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:タンポポが風媒花ではなく虫媒花に分類される具体的な理由とは?風散布種子としてのタンポポの位置づけと英語の表現

前回記事:虫媒花と風媒花と水媒花と鳥媒花の違いとは?分類される植物の代表的な種類のまとめ

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