動物や虫に寄生する植物は存在するのか?人間の肺の中で育ったエンドウ豆と冬虫夏草
前回までの一連の記事のなかでは、自分以外の他の植物に寄生する植物の種族である寄生植物や、菌類に寄生して生活している腐生植物と呼ばれる特殊な植物の種族について順番に詳しく考察してきましたが、
それでは、
こうした植物や菌類に寄生する植物の種族が存在する一方で、それに対して、人間を含む動物や昆虫やクモなどの虫に寄生する植物といった存在については、果たして、この地球上に存在すると考えられることになるのでしょうか?
冬の虫の姿から夏には草のような植物の姿へと形を変える冬虫夏草と植物と菌類との関係
こうした昆虫やクモなどの虫、あるいは、カニやヤドカリなどの甲殻類に寄生する植物の存在については、
4000年以上も昔の古代中国の時代から、本草学などの植物を中心とする薬学の文献などにおいて、しばしば言及がなされていて、
そのなかでも、代表的なものとしては、漢方の生薬や薬膳料理の材料として珍重されてきた冬虫夏草(とうちゅうかそう)と呼ばれる生物の名が挙げられることになります。
こうした冬虫夏草と呼ばれる生物は、
英語においても、しばしば、plant worms(プラント・ワームズ)やinsect plant(インセクト・プラント)すなわち「昆虫植物」などと呼ばれることもあるように、
冬には虫の姿をしていた生物が、春を過ぎて夏になると細長いツルのようなものを伸ばした草のような植物の姿へと形を変えていくように見えるため、こうした呼び名が付けられることになったと考えられることになるのですが、
こうした冬虫夏草と呼ばれる生物の正体は、
実際は、光合成を行って有機物を合成していく緑色植物に代表されるような植物ではなく、菌糸と呼ばれる糸状の組織を寄生対象となる宿主の体内へと伸ばして養分を吸収していく菌類に分類されるキノコの一種にあたるような生物であるということが明らかとなっています。
そして、
この地球上に存在するあらゆる生物を動物と植物のいずれかのグループへと分類していく伝統的な二分法においては、キノコなどの菌類も、どちらかと言えば、動物というよりは植物に分類されることになるので、
こうした冬虫夏草と呼ばれるキノコの一種にあたる寄生生物のことを植物として捉えることも必ずしも間違いであるとまでは言い切ることはできないのですが、
その一方で、
現代の生物学においては、キノコやカビなどといった菌類は、そうした動物と植物という二つの生物のグループとは別の第三の生物のグループとして分類されることが一般的であると考えられることになるため、
そういった意味では、
現代における一般的な植物の定義においては、こうした冬虫夏草と呼ばれる生物を動物や虫に寄生する植物の種族として分類することは、あまり適切な分類のあり方ではないと考えられることになるのです。
人間の肺の中で育つエンドウ豆と植物が動物の体内に寄生する可能性
それでは、
そうした現代における一般的な定義に基づく植物が人間を含む動物などの体内に寄生することは絶対にありえないことなのか?というと、
必ずしもそう言い切ることができるわけでもなく、
例えば、極めて稀な事例ではあるものの、
2010年といった近年においても、アメリカのマサチューセッツ州において、レントゲン写真に写った黒い影の所見から肺がんを疑われていたロン・スベーデン(Ron Sveden)という名の75歳の高齢男性の患者の精密検査を進めていたところ、
実際には、レントゲンに映っていた黒い影はエンドウ豆が肺の中で発芽して育っていたものであるということが明らかとなり、肺に根付いていたエンドウ豆の植物体を取り除いたところ健康状態が回復したという事例が報告されています。
上記の事例では、この男性が高齢であり肺気腫も患っていたということもあって、免疫力が低下した状態にあったことから、生きている人間の肺の中でエンドウ豆が発芽するという極めて稀な現象が起こってしまったと考えられることになるのですが、
このように、
温度や湿度といった植物の発芽に適した条件が十分に整っていて、免疫系などによる排除も行われないといった特殊な条件下においては、
人間を含む動物の体内においても、豆類などの植物の種や胞子が発芽して、体内に存在する水分や栄養素などを養分としてある程度成長していくといったことも必ずしもあり得ないことではないと考えられることになるのです。
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以上のように、
虫や動物の体内に寄生する菌類の種類としては、昆虫やクモ、カニやヤドカリなどに寄生する冬虫夏草と呼ばれるキノコの一種にあたる寄生生物の名が挙げられるのに対して、
一般的な意味における植物に分類される生物のなかには、こうした冬虫夏草と呼ばれる菌類のように、動物や虫に寄生することが基本的なライフサイクルとなっている生物の種類は、植物の種族自体としては存在しないと考えられることになるのですが、
その一方で、
前述した人間の肺の中で育ったエンドウ豆の事例のように、人間などの動物の体内に潜り込んだ植物の種が発芽して、周りの水分や栄養素を養分として成長していくことによって、
実質的に植物が動物の体内に寄生して生命活動を営んでいくことになるといった個別的な事例は、極めて稀なケースではあるものの確かに存在すると考えられることになるのです。
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次回記事:冬虫夏草とは何か?虫に寄生するキノコに分類される代表的な菌類の種類と色や形の具体的な特徴と漢方薬や生薬としての効能
前回記事:寄生植物と腐生植物の違いとは?それぞれに分類される代表的な生物の種類と具体的な特徴のまとめ
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