マイコプラズマと物理学における発光現象としてのプラズマとの関係とは?細菌なのに「不定形な真菌」を意味する名を持つ生物
前回の記事で書いたように、ウイルスのほかに風邪のような症状を引き起こす病原体となる代表的な細菌の種類としては、マイコプラズマと呼ばれる細菌の種類の名前が挙げられることになります。
そして、
こうしたマイコプラズマと呼ばれる細菌の種族は、細胞の大きさが200-300nm(ナノメートル)という最小の部類に属する細菌あり、細胞壁をもたず、酸素がない状態でも生存し続けることができるというように、様々な細菌の種類のなかでも比較的特異的な性質をもった細菌として位置づけられることになるのですが、
こうしたマイコプラズマと呼ばれる細菌の種族は、マイコプラズマというその名前自体の由来からして、奇妙な特徴をもった細菌の種族であると考えられることになります。
マイコプラズマと物理学における発光現象としてのプラズマの関係とは?
そもそも、
マイコプラズマ(Mycoplasma)という名称自体の語源は、
ギリシア語において「キノコ」や「真菌」のことを意味するmykes(ミュケス)という言葉と、同じくギリシア語におけるplasma(プラスマ)という言葉が結びついてできた言葉であり、
こうしたギリシア語を語源とするプラズマという言葉は、物理学の分野においては、高温状態や気体放電などによって気体分子が高度に電離した状態などにおいて見られる発光現象のことを意味する言葉として用いられることになります。
しかし、このように、
こうした細菌の種族のことを意味するマイコプラズマという名称のうちに、プラズマという物理学における発光現象を引き起こす原子や分子の電離状態のことを意味する言葉が含まれているからといって、
そのことは、別に、
そうしたマイコプラズマと呼ばれる生物が、まるで電気クラゲのように人体のなかでピカピカと発光しているといったことを意味しているわけではなく、
こうしたギリシア語におけるplasma(プラスマ)という言葉は、もともと、その原義となる意味においては、「形づくられたもの」あるいは「型に流し込んでつくられたもの」といった意味を表す言葉であったと考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
マイコプラズマと呼ばれる細菌の名称において、プラズマという言葉が用いられている理由としては、
この細菌の種族が他の細菌の種族とは異なり、自らの細胞を頑丈に支える細胞壁を持たないために、侵入していく周りの組織の形状に合わせて自らの細胞の形状を容易に変化させていくことができるというように細胞の形状に可塑性があるということ、
すなわち「不定形」という意味において、こうしたプラズマという言葉が用いられていると考えられることになるのです。
マイコプラズマが細菌なのに真菌に由来する名前を持つ理由とは?
そして、
こうしたマイコプラズマ(Mycoplasma)という名称の由来については、その名称の前半のmyco(マイコ)すなわち「真菌」のことを意味する部分にも少し奇妙なところがあると考えられ、
マイコプラズマと呼ばれる病原体は、その語源となる言葉のうちに示されているように、その病原体が発見された当初は、キノコやカビの仲間である真菌の一種であると考えられていたのですが、
その後のより詳細に研究によって、
こうしたマイコプラズマと呼ばれる病原体の構造が、実際には、細胞核をもつ真核生物にあたる真菌ではなく、細胞核をもたない原核生物にあたることが判明したため、
新たに、真菌ではなく原生生物の一種である細菌の種族として位置づけ直されることになった病原体であると考えられることになります。
つまりは、
こうしたマイコプラズマと呼ばれる生物の種族は、
それが発見された当初は、周りの組織の形状に合わせて自らの形状を自在に変化させていく「不定形な真菌」といった意味で、こうした名前が付けられることになったと考えられることになるのですが、
そののちに、
それがキノコやカビの仲間である真菌の一種ではなく、原生生物の一種である細菌に分類される病原体であることが判明してしまったために、
現在においては、
細菌なのにmyco(真菌)と呼ばれ、ピカピカと光もしないのにplasma(プラズマ)と呼ばれるというマイコプラズマという奇妙な名前の方だけが取り残されることになってしまったと考えられることになるのです。
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次回記事:プラズマの語源とは何か?ギリシア語におけるプラズマの意味と血漿とマイコプラズマ
前回記事:細菌が原因となる風邪の種類とは?細菌の一種であるマイコプラズマが原因となる風邪の具体的な特徴
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