知性と理性の違いとは?古代ギリシア哲学とカントの認識論哲学における知性と理性の具体的な意味の違い
知性と理性と呼ばれる二つの概念は、どちらも、人間の意識における知的な認識作用のあり方を意味する概念として捉えることできますが、
以前にも「知性とは何か?」と「理性とは何か?」の二つのシリーズで詳しく考察してきたように、
こうした二つの概念は、どちらも古代ギリシア哲学から近代哲学へと至るまでの一連の哲学史の流れのなかで、それぞれの概念が指し示す具体的な意味内容が大きく変化していくことになった概念であるとも考えられることになります。
それでは、
こうした哲学史の流れのなかで、知性と理性と呼ばれる二つの概念は、互いにどのような点において異なる意味を持った概念として位置づけられていくことになっていったと考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシア哲学におけるヌース(知性)とロゴス(理性)の意味
まず、
こうした知性と理性と呼ばれる二つの概念は、もともとは、
ギリシア語におけるヌース(nous)と同じギリシア語におけるロゴス(logos)という言葉にそれぞれ由来する概念であると考えられることになります。
そして、
こうした二つの概念の内の前者であるヌース(知性)は、
例えば、紀元前5世紀の古代ギリシアの哲学者であったアナクサゴラスの哲学思想においては、
原初的な混合状態にあった宇宙に対して最初の運動を与え、宇宙全体の回転運動を支配することによって宇宙の内に存在するすべての事物に適切な秩序と配置を与える根源的な原理のことを意味する概念として位置づけられているのに対して、
後者のロゴス(理性)と呼ばれる概念は、
例えば、紀元前6世紀の古代ギリシアの哲学者であったヘラクレイトスの哲学思想においては、
すべての人々が聴き従うべき普遍的な真理を示す永遠不変の存在にして、万物を一つに統一していく力を持った根源的な原理のことを意味する概念としても位置づけられていくことになります。
このように、
古代ギリシア哲学においては、こうしたヌース(知性)とロゴス(理性)という二つの言葉は、どちらも、もともとは、
すべての人間の認識に共通する普遍的な真理や宇宙全体の秩序を司る根源的な原理の存在のことを意味する言葉として用いられていたと考えられることになるのです。
カントの認識論哲学における知性と理性の具体的な意味の違い
そして、それに対して、
その後のアリストテレス哲学や中世ヨーロッパのスコラ哲学における様々な議論を経ていくなかで、こうした知性と理性と呼ばれる二つの概念の間には次第に大きな意味の差異が生じていくことになり、
そうした古代ギリシア哲学から近代哲学へと至る一連の哲学思想の展開の集大成としても位置づけられることがあるカントの認識論哲学においては、
こうした知性と理性と呼ばれる二つの概念のあり方は、
前者にあたる知性は、人間の心の内にある多様な表象を量・質・関係・様相といった様々な種類のカテゴリーの形式に基づく概念として把握していく心の働きのあり方として位置づけられるのに対して、
後者にあたる理性は、そうした多様な概念を自らの論理的な推論能力を通じて一つの客観的な認識のあり方へと統一していく心の働きのあり方として位置づけられたうえで、
人間の意識における客観的な認識のあり方は、こうした知性と理性と呼ばれる二つの心の働きに、感性と呼ばれるもう一つの心の働きも加えた三つの認識作用によって成り立っていると捉えられていくことになるのです。
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以上のように、
こうした知性と理性と呼ばれる二つの概念は、どちらも古代ギリシア哲学における大本の意味においては、
すべての人間の認識に共通する普遍的な真理や宇宙全体の秩序を司る根源的な原理のあり方のことを意味する概念として用いられていたと考えられ、
その後のアリストテレス哲学や中世スコラ哲学における一連の議論を経ていくなかで、それぞれの概念が示す意味内容のあり方が大きく変化していったと考えられることになります。
そして、
現代の哲学や心理学の分野における知性と理性の概念の定義へと直接通じていくことになるカントの認識論哲学においては、
知性は、人間の心の内にある多様な表象を様々な種類のカテゴリーの形式に基づく概念として把握していくという人間の意識における概念的な把握を主体とする心の働きのあり方を意味する概念として定義されるのに対して、
理性は、多様な概念を自らの論理的な推論能力を通じて一つの客観的な認識のあり方へと統一していくという人間の意識における論理的な推論能力を主体とする心の働きのあり方を意味する概念として定義されることになるといった点に、
こうした知性と理性と呼ばれる二つの概念の具体的な意味の違いを見いだしていくことができると考えられることになるのです。
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次回記事:西洋哲学史における知性・理性・感性の序列関係の変化、アリストテレスとカントの哲学における知性と理性の関係の逆転現象
前回記事:知性とは何か?⑧アナクサゴラスからアリストテレスそしてロックとカントへと至る哲学史における知性の概念の変遷のまとめ
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