神の存在の目的論的証明とは何か?②ガッサンディの原子論に基づく自然界の機械論的な秩序と原子の創造者としての神の実在

前回の記事では、神の存在の目的論的証明の議論の原型となっていると考えられる新約聖書「ローマの信徒への手紙」における記述について取り上げましたが、

中世のスコラ哲学近世ヨーロッパの哲学思想においても、目的論的証明に関わる議論や論証のあり方は散見されると考えられ、

そうした中世や近世のヨーロッパの神学論争における神の存在の目的論的証明の議論のなかの代表的な例としては、17世紀のフランスの哲学者であるガッサンディにおける原子論的な神の存在証明の議論を挙げることができると考えられることになります。

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ガッサンディとデカルトにおける神学論争と古代原子論の復興

ピエール・ガッサンディPierre Gassendi、1592年~1655)は、近世哲学の父としても位置づけられるルネ・デカルトRené Descartes、1596年~1650年)と同時代の17世紀のフランスにおいて活躍した哲学者であり、

彼の哲学史における主要な業績としては、神学や形而上学におけるデカルトとの論争や、エピクロスを中心とする古代ギリシア哲学における原子論の学説の近代ヨーロッパにおける復興などが挙げられることになります。

そして、

ガッサンディは、そうしたデカルトとの神学論争の中で、デカルトが神の存在証明の議論として提出した存在論的証明の議論における神の実在性の論証のあり方を、

完全性という概念のみに基づく推論から神の実在性という現実における存在のあり方を導出しようとする誤った論証のあり方として退けたうえで、

人間の知性における感覚的な認識に基づく原子論の立場に立った目的論的な神の存在証明の議論を提示していくことになるのです。

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自然界の機械的な秩序と原子の創造者としての神の実在性の論証

まず、

こうしたガッサンディによる原子論に基づく神の存在の目的論的証明の議論において、

現実の世界の内に存在するあらゆる事物は、原子(アトム)と呼ばれるそれ以上分割することができない物質の最小構成単位となる存在が、互いに複雑に組み合わさっていくことによって形成されていると説明されることになります。

そして、

そうした原子によって構成されている物体同士が法則的に影響し合っていくという機械的な仕組みによって、この世界におけるあらゆる自然現象のあり方が説明されていくという機械論的自然観が提示されていくことになるのですが、

それに対して、

この世界の内に、そうした秩序だった精巧な機械仕掛けのような自然の仕組みが形成されていることの原因自体は、

そうした自然界における精巧な秩序原子という存在自体の創造者にあたる神の存在の内にのみ求められるという議論が展開されていくことになります。

前述したように、

現実の世界におけるあらゆる事物原子の組み合わせによって形づくられているとしても、

世界の内にそうした無数の原子たちがただ存在しているだけでは、そうした原子たちは互いに意味のあるような有意義なまとまりを持たないバラバラで無秩序な状態にあると考えられることになります。

そして、

そうしたバラバラで無秩序な原子たちの寄せ集めの状態から秩序だった仕組みを持った精巧な自然界の構造が単なる偶然のうちにひとりでに勝手に組みあがっていくというのは到底あり得ないことであると考えられることになるので、

そうした無数の原子たちが現在の自然界における秩序だった構造を形づくるようになるためには、

自らの目的にかなうようにそうした一つ一つの原子の適切な位置にあるようにその配置を予め定めたこの宇宙の創造者としての神の存在が不可欠であるということが示されていくことになるのです。

・・・

以上のように、

こうしたガッサンディによる原子論に基づく神の存在の目的論的証明の議論においては、

この宇宙の内に存在する無数の原子たちが織りなす自然界における精巧な秩序と、宇宙の内に存在するあらゆる事物を構成する原子そのものの存在に基づいて、

そうした自然界の機械論的な秩序原子の存在そのものの創造者としての神の実在性の論証が行われていると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:神の存在の目的論的証明とは何か?③インテリジェントデザイン説における偉大なる知性と全知全能の創造主としての神との関係

前回記事:神の存在の目的論的証明とは何か?①新約聖書の「ローマの信徒への手紙」における目的論的証明の原型となる記述

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