神の存在の目的論的証明とは何か?③インテリジェントデザイン説における偉大なる知性と全知全能の創造主としての神との関係
前々回と前回の記事では、古代ローマの時代の新約聖書における記述において示されている神の存在の目的論的証明の原型となる議論のあり方と、
近世ヨーロッパにおけるデカルトと同時代のフランスの哲学者であるガッサンディによって提示されている原子論に基づく目的論的証明の議論について、それぞれ順番に取り上げてきましたが、
現代の時代においては、こうした神の存在に関する目的論的証明と呼ばれる神の実在性の論証のパターンのあり方は、特に、
インテリジェントデザイン説と呼ばれるある種の生物学的な学説において用いられている議論のうちに見いだすことができると考えられることになります。
生命体の合目的的な秩序の背後にある「偉大なる知性」の存在
インテリジェントデザイン(intelligent design)とは、1990年代ごろのアメリカにおいて、現代の生物学の基礎理論の一つにあたるダーウィンの進化論に基づく生物観や宇宙観のあり方を批判していくなかで生まれていった
反進化論的な新たな生物学上の学説やそれに基づく宇宙観のあり方のことを意味する言葉であり、
そこでは、
生命の誕生から現在の動物や植物さらには人間の存在をも含む複雑な生態系へと至る生命の展開のあり方は、単なる偶発的な変異の積み重ねとしての進化ではなく、
偉大なる知性(intelligence)を持った何らかの存在の意図的な設計(design)によってもたらされたものであると主張されていくことになります。
例えば、
人間の目や鳥の翼、あるいは、そうした人間を含む動物たちの身体の内部における臓器などの器官や免疫システムなどにおいては、
複雑で精緻な構造とそれぞれの器官の目的にかなった適切な仕組みのあり方が観察されることになりますが、
そうした生命体の内部における合目的的な精巧な秩序のあり方は、単なる偶発的な変異の積み重ねによって形づくられたものであるとは到底考えることができないとも考えられることになります。
そして、そういった考え方から、
そうした生命の誕生とその後の複雑な生命の展開のあり方に、単なる偶然性に基づく進化以上の何らかの力の介在、
すなわち、
そうした生命の誕生と展開という偉大な事業を成し遂げることができるような強大な意志と力を持った偉大なる知性を有する存在による創造と導きを必然的なものとして認めざるを得ないと考える
インテリジェントデザイン説と呼ばれる議論が導かれていくことになったと考えられることになるのです。
インテリジェントデザイン説における「偉大なる知性」と伝統的な神学上の概念としての「全知全能の創造主としての神」の一致
そして、
こうしたインテリジェントデザイン説と呼ばれる議論自体のなかでは、それが現代の生物学における一つの学説として位置づけられている以上、
直接的な形で神学や宗教学的な意味における神の概念について語られることはないと考えられることになるのですが、
その一方で、
こうしたインテリジェントデザイン説において生命体における合目的的な秩序の原因として位置づけられている偉大なる知性の存在は、
伝統的な神学上の議論における完全なる知性と能力を兼ね備えたすべての存在の究極の原因となる存在、
すなわち、全知全能の創造主としての神の存在とほぼ同一の存在のことを意味する概念としても捉えることができると考えられることになります。
つまり、インテリジェントデザイン説においては、
生命の誕生とその後の複雑な生命の展開のあり方の内に見いだされる複雑で精緻な構造と合目的的で精巧な秩序の原因として、
そうした生命体における複雑な構造と合目的的な秩序を自らの意志によって設計した何らかの偉大なる知性の存在が求められることになり、
さらに、
そうしたインテリジェントデザイン説における偉大なる知性の存在は、伝統的な神学上の概念としては全知全能の創造主としての神と一致する存在としても捉えることができるという点において、
こうしたインテリジェントデザイン説と呼ばれる生物学上の学説は、古代から近代の時代の哲学や神学上の論争における神の存在の目的論的証明の議論のあり方が、
現代の時代における反進化論的な生物学上の学説の姿をとって新たな形で蘇った一つの形而上学的な生命論のあり方として捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:聖書における三通りの神の存在証明のあり方とは?救済論的証明と目的論的証明そして神と人間の存在の類比に基づく証明
前回記事:神の存在の目的論的証明とは何か?②ガッサンディの原子論に基づく自然界の機械論的な秩序と原子の創造者としての神の実在
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