「出づる」と「出ずる」はどちらが正しい表記なのか?「出雲」や「日出ずる国」といった言葉における読み仮名と送り仮名

前回書いたように、「愛づ」や「愛ず」といった言葉は、現代仮名遣いや歴史的仮名遣いと呼ばれる仮名の表記方式の違いに応じて、送り仮名の表記のあり方が異なる形で記される言葉であると考えられることになるのですが、

こうした現代仮名遣いと歴史的仮名遣いにおける「づ」と「ず」という仮名の表記方式の違いに応じて送り仮名の表記が異なってくる言葉としては、

こうした「愛づ」や「愛ず」といった言葉のほかにも、より一般的な言葉の例として、

「出づ」と「出ず」、そして、これらの言葉の連体形にあたる「出づる」と「出ずる」といった言葉が挙げられると考えられることになります。

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現代仮名遣いと歴史的仮名遣いにおける「出づ」と「出ず」の表記の違い

そもそも、

こうした「出づ」や「出ず」という言葉は、

現代の日本語における「出る」(でる)という動詞の文語形にあたる言葉であり、

現代語における「出る」という動詞は、ダ行下一段活用の動詞であり、未然形・連用形・終止形・連体形・仮定形・命令形という活用形のそれぞれは、

ない」「ます」「でる」「でるとき」「でれば」「でろ」という形で変化していくことになります。

それに対して、

こうした「出る」という言葉の文語形にあたる「出づ」という動詞は、ダ行下二段活用の動詞であり、その活用形は、

ず」「たり」「」「づるとき」「づれども」「でよ」という形で変化していくことになります。

つまり、

こうした現代語における「出る」とその文語形にあたる「出づ」という動詞は、それぞれダ行下一段活用ダ行下二段活用にあたる動詞であり、

両方とも、本来は、ザ行ではなくダ行で活用が進められていく動詞であると考えられることになるので、

そういう意味では、

こうした「出づ」と「出ず」といった言葉は、そうした一つ一つの言葉を古文における動詞として単独で捉える場合には、

それは古文における歴史的仮名遣いに従って、「出づ」というダ行の送り仮名を用いる形で表記する方がより正しい表記のあり方であると考えられることになるのです。

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「出雲」(いずも)や「日出ずる国」における読み仮名と送り仮名

しかし、その一方で、

現代仮名遣いに従った「出ず」という表記の方が完全に誤った表記のあり方であるといえるわけではなく、

例えば、

日本という国を表す美称として用いられることのある「日出づる国」または「日出ずる国」という言葉は、

広辞苑や大辞泉といった代表的な国語辞典においては、「ひいずるくに」と読まれる索引の項目の場所に位置づけられていて、

辞書の本文における語句の表記においても、送り仮名をつけずに「日出国」と表記されるか、現代仮名遣いに従って、「日出ずる国」という形で表記がなされています。

また、それと同様に、

出雲大社(いずもたいしゃ)出雲阿国(いずものおくに)などで有名な、現在の島根県東部を指す旧国名の一つである出雲といった言葉についても、

それは、通常の場合は、「いづも」という歴史的仮名遣いに従った表記ではなく、現代の日本語における現代仮名遣いに従って「いずも」という読み仮名がふられる形で表記されることになります。

つまり、

こうした「日出ずる国」「出雲」(いずも)といった固有名詞化されたうえで、現代日本語の内へと取り入れられていった表現においては、それが古代から用いられていた言葉であっても、

一般的には「出ず」という現代仮名遣いに沿った振り仮名や読み仮名がふられることになると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

「出づ」と「出ず」、そして、これらの言葉の連体形の形にあたる「出づる」と「出ずる」という言葉は、

文法的には、現代語における「出る」(でる)という動詞の文語形にあたるダ行下二段活用「出づ」という動詞の終止形と連体形にあたる言葉であると考えられることになるので、

こうした言葉は、それが文語、すなわち、古文における動詞として単独で捉えられた場合には、現代仮名遣いに従った「出ず」や「出ずる」といった表記ではなく、歴史的仮名遣いに従った「出づ」や「出づる」といった表記を用いる方がより正しい表記のあり方であると考えられることになるのですが、

それに対して、

「日出ずる国」「出雲」(いずも)といった言葉にみられるように、こうした言葉が固有名詞化されるような形で、現代における日本語表現の内へと取り入れられていった場合には、

歴史的仮名遣いよりも現代仮名遣いに従って、「出ず」や「出ずる」といった表記を用いる方が、より一般的な表記のあり方となると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:「日出づる」と「日出ずる」はどちらが正しい表記なのか?『隋書』東夷伝倭国条における「日出づる処の天子」の記述

前回記事:「愛づ」と「愛ず」ではどちらが正しい表記なのか?口語形と文語形、現代仮名遣いと歴史的仮名遣いにおける表記の違い

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