古代の魔術師シモン・マグスによる水から血、血から肉への人体の錬成、ホムンクルスとは何か?②

前回書いたように、ホムンクルスという言葉は、もともとラテン語の語源においては、

ラテン語で「人間」を意味するhomo(ホモ)という名詞に、「小さい」「少し」といった意味を表す-culus(クルス)という接尾辞が結びつくことによってできた言葉であり、

古代ローマのラテン語におけるホムンクルス(homunculusという言葉は、もともとは、体や心の大きさが小さい人間、すなわち、「小柄な人物」や「小人」、あるいは、「小心者」といった意味を表す一般的な言葉として用いられていたと考えられることになります。

そして、

こうした古代ローマ時代のラテン語におけるホムンクルスの概念が、中世から近世の時代のヨーロッパに生きた錬金術師たちの手によって、

魔術の力や錬金術の技術によって創り出される人造人間のことを意味する現代におけるホムンクルスの概念へと徐々に変容されていったと考えられることになるのですが、

そうした人造人間としてのホムンクルスの錬成を試みた代表的な人物としては、シモン・マグスや、パラケルススといった魔術師や錬金術師たちの名を挙げることができると考えられることになります。

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古代の魔術師シモン・マグスによる水から血、血から肉への人体の錬成

このうち、最初の人物として挙げたシモン・マグス(Simon Magusは、紀元後1世紀頃の時代の中東世界において活動を広げていたとされる古代の高名な魔術師であり、

その名は、新約聖書の「使徒言行録」にも記録があるほか、グノーシス主義の開祖や、カトリック教会から最初の異端者として名指しされることもある人物ですが、

古代ローマの時代から伝わる伝説によると、一説には、彼は、大気から水を取り出すことができたとされ、

シモン・マグスは、そうして生み出された神聖な水を血液へと変え、次に、血液から肉を形作ることによって人体を創造することに成功したと語り伝えられています。

古代ギリシア哲学においては、人間を含むあらゆる存在を生成する万物の始原となるアルケーは、水・空気・火・土の四元素のいずれかであると主張されることになるのですが、

シモン・マグスによる人体錬成の伝説においては、こうした古代ギリシア哲学における四元素理論を思想的な前提としたうえで、

彼がこうした万物の始原となる四つの元素の内の水または空気という二つのより根源的な存在から、人体という複雑な存在を新たに創り上げることに成功したとする逸話が語り継がれていくことになったと考えられることになるのです。

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以上のように、

こうした古代ローマの時代から伝わる伝説に基づくと、

紀元後1世紀頃中東世界に生きていたとされる古代の魔術師シモン・マグスは、魔術や錬金術のような力を用いることによって、

万物の始原となる四元素のうちの一つである、空気から水を取り出し、そうして生み出された神聖な水から今度は血液を生み出して、さらにそこから肉体を形作るという

空気から水、水から血、血から肉という三段階の錬成によって、新たな人体を創り上げるという試みを行っていたと考えられることになります。

そして、このように、

空気や水や血液といった物質から人体やある種の生命体を人為的に創り出そうとする試みは、古(いにしえ)の時代から長きにわたって度々繰り返されてきたと考えられることになるのですが、

こうした魔術や錬金術の力によって生成された人造人間のような存在に対して、明確に「ホムンクルス」という言葉が用いられるようになったのは、こうした古代ローマの時代ではなく、

ローマ帝国が滅びてから、さらに、何世紀もの時が過ぎ、ヨーロッパが中世から近世の時代へと入った頃の時代であったと考えられることになります。

そして、次回改めて詳しく書いていくように、

こうした人為的に創造された人間に類する生命体、すなわち、人造人間のことを指して「ホムンクルス」という言葉が明確に用いられるようになっていったことを示す最も有名な代表的人物として、

パラケルススという名で知られる16世紀ドイツの錬金術師の名が挙げられることになるのです。

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次回記事:錬金術師パラケルススによるホムンクルス(人造人間)の錬成、腐敗と血の犠牲が生む神秘的な知識を持つ小人、ホムンクルス③

前回記事:ホムンクルスとは何か?①ラテン語の語源と、体の小ささだけでなく心の小ささも意味する「小心者」や「小人物」としての意味

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