グノーシス主義とは何か?①グノーシスという言葉の意味と魂と宇宙に関する神秘的認識
グノーシス主義(gnosticism)とは、キリスト教の成立と時期を同じくする紀元後1世紀頃に、地中海の東側に位置する中東世界において発生し、
その後、初期キリスト教や、中期プラトニズムの影響を受けながら発展していった哲学的な宗教思想のことを指す言葉です。
グノーシス主義の伝説的な開祖としては、キリスト教の聖典である『新約聖書』の中に出てくる異教の教主からキリスト教徒へと改宗した異色の人物であるシモン・マグスや、
イエス・キリストに洗礼を授けた人物であるとされる洗礼者ヨハネ(バプテスマのヨハネ)の名が挙げられることになりますが、
こうした初期キリスト教の成立と深い関わりのある思想運動であった考えられるグノーシス主義はどのような教義と特色を持った宗教思想であり、
そもそも、グノーシス主義における「グノーシス」とは、具体的にどのような意味を持つ言葉であると考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシア語におけるグノーシスの意味と魂と宇宙に関する神秘的認識
グノーシス(gnosis)という言葉は、もともと古代ギリシア語で「知識」や「認識」のことを意味する言葉であり、
より具体的には、人間が宇宙全体を俯瞰してその仕組みを理解すると同時に、自分自身の心の内を深く内観することによって得られる神秘的な知識としての真理のことを意味する言葉ということになります。
グノーシス主義では、ミクロコスモス(小宇宙)である人間は、根源的には肉体と精神という二つの側面に分裂した存在として捉えられ、
肉体がもたらす欲望が人間を悪しき道へと引き込む悪しき存在であるのに対して、精神における知性の働きは人間を正しき道へと引き戻して真理へと導く善き存在であると捉えられることになります。
それと同様に、
マクロコスモスである宇宙についても、それは物質的存在から成る悪しき宇宙と、神的で精神的な存在から成る善き宇宙という二つのあり方に根源的に分裂した存在として捉えられることになります。
そして、グノーシス主義においては、
物質的存在から成る悪しき宇宙とその内にある悪しき肉体から離れ、自分自身の心の内にある人間の魂の神的な本性を自覚することによって魂の救済が得られると考えられることになるのですが、
こうした自分自身の魂と宇宙全体の真理に関する神秘的な認識のあり方こそが、グノーシス主義におけるグノーシスという言葉が持つ具体的な意味の内実であると考えられることになるのです。
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以上のように、
グノーシス主義におけるグノーシスという言葉は、もともと古代ギリシア語において「知識」や「認識」のことを意味する言葉であり、
それはより具体的には、自分自身の魂と宇宙全体の真理を探究することによって得られる神秘的な認識のあり方のことを意味する言葉であると考えられることになります。
そして、詳しくは次回考えていくように、こうしたグノーシス主義における哲学思想の特徴は、主知主義、善と悪の二元論そして反宇宙論という三つの特徴にまとめる形で説明することができると考えられることになるのです。
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