シダ植物とコケ植物の違いとは?両者を区別する五つの具体的な特徴と、それぞれに分類される植物の代表的な種類
前回書いたように、一般的に、陸上植物の種類は、大きく分けて、種子植物とシダ植物そしてコケ植物という三つの植物の分類に分けることができ、
種子植物が種子によって繁殖し、花を形成する植物であるのに対して、
シダ植物とコケ植物は、両方とも、胞子によって繁殖し、花を形成しない植物であるといった点に、シダ植物とコケ植物の両者の共通点があると考えられることになります。
しかし、
シダ植物とコケ植物の間には、上記のような共通点を除くと、互いに大きく異なる特徴も数多く存在し、
シダ植物とコケ植物の両者を区別する主要な特徴としては、以下で述べるような全部で五つの具体的な特徴を挙げることができると考えられることになります。
シダ植物とコケ植物を区別する五つの具体的な特徴とは?
まず、
シダ植物とコケ植物の両者を区別する具体的な特徴としては、
シダ植物が、植物体の根と茎と葉を貫く形で道管や師管といった水や養分の束状の通路を形成し、体を支持する働きも担う維管束(いかんそく)と呼ばれる組織をもつ維管束植物に分類されるのに対して、
コケ植物の植物体には、維管束と呼ばれるような組織は存在しないという点が挙げられることになります。
また、こうしたことと関連して、
シダ植物においては、維管束を通じて、植物体の組織の基本器官への分化が進んで行くことによって、根と茎と葉の明確な区別が存在するのに対して、
コケ植物においては、そうしたシダ植物におけるような根と茎と葉への組織の明確な分化はあまり見られず、
地上部分では、茎と葉がつながったような単純な構造をした茎葉体(けいようたい)や、茎と葉の分化がほとんど見られずに全体が接地面に対して平らに広がった葉状体(ようじょうたい)と呼ばれる組織を形成したうえで、
その下面においては、維管束のような通道組織は持たずに、ただ水分を吸収し、接地面に対して体を固着する役割だけを担う仮根(かこん)と呼ばれる地下器官を形成することになります。
シダ植物とコケ植物に分類される植物の代表的な種類
ちなみに、
シダ植物とコケ植物のそれぞれの区分に分類される植物の代表的な種類としては、
シダ植物に分類される植物の代表的な種類としては、
ワラビ(蕨)、ミズワラビ(水蕨)、イヌワラビ(犬蕨)、ゼンマイ、ヘゴ、ウラジロ、シノブ、コケシノブ、ノキシノブ、ヒトツバ(一葉)、ベニシダ(紅シダ)、タマシダ(玉シダ)といった植物の名前が挙げられるのに対して、
コケ植物に分類される植物の代表的な種類としては、
スギゴケ(杉苔)、ミズゴケ(水苔)、ウロコゴケ(鱗苔)、ヒカリゴケ(光苔)、ゼニゴケ(銭苔)、ウキゴケ(浮苔)、ダンゴゴケ(団子苔)、ツノゴケ(角苔)といった植物の名前が挙げられることになりますが、
こうしたコケ植物に分類される植物のうち、
スギゴケ、ミズゴケ、ウロコゴケ、ヒカリゴケなどの種類は、茎と葉の区別が比較的しっかりとある茎葉体を形成するコケ植物の種類へと分類されるのに対して、
ゼニゴケ、ウキゴケ、ダンゴゴケ、ツノゴケなどの種類は、葉状体を形成するコケ植物の種類へと分類されることになります。
シダ植物とコケ植物の生活環における具体的な相違点とは?
また、
詳しくは前回の記事で書いたように、シダ植物やコケ植物の生活環は、配偶体における有性世代と、胞子体における無性世代という二つの異なる世代が順番に交代していくという二世代のサイクルに分かれることになるのですが、
こうしたシダ植物とコケ植物のそれぞれにおける生活環の具体的なあり方の内にも両者の間に存在する明確な相違点が何点か見られることになり、
例えば、
シダ植物の場合には、有性生殖を行う植物体である前葉体(配偶体)は通常0.5~2センチメートル程度の大きさまでしか成長しないのに対して、無性生殖によって胞子を形成する胞子体の方は、数10センチ~10メートル程度の大きさまで大きく成長していくことになるのですが、
その反対に、
コケ植物の場合には、有性生殖を行う植物体である配偶体の方が大きく発達していき、無性生殖によって胞子を形成する胞子体は、そうして大きく育った配偶体の上で発芽することによって胞子を散布していくことになります。
つまり、
シダ植物の場合には、人間が日常的に目にする主体となる植物体の姿は、無性生殖によって胞子を形成する胞子体の姿であるのに対して、
コケ植物の場合には、有性生殖を行う植物体である配偶体の方が主体となるという点に、両者の生活環における大きな相違点があると考えられるということです。
そして、
こうしたシダ植物とコケ植物の二世代にわたる生活環のサイクルのそれぞれにおいて形成される植物体のうち、性別的な区分をもった植物体である配偶体の形成のあり方についても、両者の間には相違点が見られることになり、
シダ植物のほとんどは、一つの配偶体(前葉体)の内に造卵器と造精器の両方が備わった雌雄同株(雌雄同体)の植物に分類されるのに対して、
コケ植物の多くは、配偶体が造卵器だけをもつ雌株と造精器だけをもつ雄株へと分かれる雌雄異株の植物に分類されることになるのですが、
こうした点においても、シダ植物とコケ植物の両者の間には相違点が存在すると考えられることになるのです。
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以上のように、
シダ植物とコケ植物の両者を区別する主要な特徴としては、
①シダ植物は道管や師管が束になった通道組織である維管束を形成するのに対して、コケ植物は維管束を形成しない。
②シダ植物においては根と茎と葉の区別が明確であるのに対して、コケ植物においては根や茎や葉への組織の分化があまり進んでいない。
③シダ植物は地下器官として維管束へと通じる通道組織をもった根を形成するのに対して、コケ植物は維管束植物のような通道組織は持たずに、水分の吸収と接地面への体の固着のみを行う仮根と呼ばれる地下器官を形成する。
④シダ植物はその生活環において、無性生殖によって胞子を形成する胞子体が主体となるのに対して、コケ植物の生活環においては、有性生殖を行う植物体である配偶体の方が主体となる。
⑤シダ植物のほとんどは雌雄同株(雌雄同体)であるのに対して、コケ植物の多くの種類は雌雄異株に分類され、配偶体が雌株と雄株へと区分される。
という全部で五つの相違点となる特徴を挙げることができると考えられることになります。
そして、
こうしたシダ植物とコケ植物のそれぞれに分類される植物の代表的な種類としては、
シダ植物については、
ワラビ、ミズワラビ、イヌワラビ、ゼンマイ、ヘゴ、ウラジロ、シノブ、コケシノブ、ノキシノブ、ヒトツバ、ベニシダ、タマシダ
といった植物の名前が挙げられるのに対して、
コケ植物については、
スギゴケ、ミズゴケ、ウロコゴケ、ヒカリゴケ、ゼニゴケ、ウキゴケ、ダンゴゴケ、ツノゴケ
といった植物の名前が挙げられることになるのです。
・・・
次回記事:シダ植物やコケ植物に花が咲かない理由とは?水を媒介とする植物の生殖形態と水媒花との関係
前回記事:一般的な植物(種子植物)とシダ植物やコケ植物との違いとは?両者を区別する三つの大きな相違点となる具体的な特徴
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