アウフヘーベンとは何か?ヘーゲルの弁証法哲学における「アウフヘーベン」の具体的な意味とは?
前回書いたように、aufheben(アウフヘーベン)という言葉は、もともと
auf(上方へ)とheben(持ち上げる)という二つの単語が結合してできたドイツ語の動詞であり、
それは、ドイツ語の原義においては、「拾い上げる」あるいは「上方に持ち上げる」といった意味を表す言葉であると考えられることになります。
そして、こうした原義となる意味からは、他にも「廃止する」、「撤廃する」、「相殺する」、「保管する」、「保存する」といった多様な意味が派生してくることになるのですが、
それでは、それに対して、ヘーゲルの弁証法哲学における哲学的な概念としての「アウフヘーベン」とは、具体的にどのような意味を持った概念であると考えられることになるのでしょうか?
三つの要素のすべてを同時に満たす思考の進め方としてのアウフヘーベン
詳しくは前回の記事で書いたように、冒頭に挙げたようなaufheben(アウフヘーベン)というドイツ語の動詞における多義的な意味のあり方は、
①「解消する」、②「高める」、③「保存する」という三つの主要な意味へと集約することができると考えられることになるのですが、
一言でいうと、
こうした解消する・高める・保存するという三つの要素のすべてを同時に満たす思考の進め方というのが、ヘーゲルの弁証法哲学におけるアウフヘーベンであると考えられることになります。
ヘーゲルの弁証法哲学においては、
まず、テーゼ(These、定立、正命題)と呼ばれる論理的には妥当であると思われる一つの概念が示されたうえで、
次に、テーゼと同等に論理的に妥当な概念であると思われるものの、それとは正反対の性質を持ち、テーゼを否定する要素を有すると考えられる別の概念がアンチテーゼ(Antithese、反定立、反立命題)として打ち立てられることになります。
そして、そうした互いに対立するが、論理的には同等に正しいと思われる互いに矛盾する二つの概念がアウフヘーベン(Aufheben)と呼ばれる思考の働きによって、
両者の概念自体はいったん互いに否定されたうえで、より高次の段階において、それぞれの概念の本質が保存される形でジンテーゼ(Synthese、統合)されていくというのが、
ヘーゲルの弁証法と呼ばれる思考のあり方における論理展開の進め方であると考えられることになります。
例えば、ヘーゲルの国家論において示されている弁証法的な展開を例として挙げるとすると、
そこでは、まず、人間という種族における自然的な結合のあり方である「家族」という概念をテーゼ(正)としたうえで、
それと対立する概念として、自由な個人によって構成される分裂的な「市民社会」と呼ばれる概念がアンチテーゼ(反)として提示されることになります。
そして、こうした「家族」と「市民社会」という互いに矛盾する二つの概念が、アウフヘーベンと呼ばれる思考の働きによって新たな形においてジンテーゼ(統合)されることによって、
そうした両者の概念の発展的解消によって生じるのが「国家」と呼ばれる概念であると説明されることになります。
つまり、上記の国家論の例においては、
本来、互い互いを否定し合うという矛盾対立の関係にあるはずの「家族」と「市民社会」という二つの概念が、
互いにいったん否定されることによって両者の概念の間の対立が①解消され、それらの概念が、今度は「国家」という②より高次の次元において統合されることによって、両者の概念の本質自体が③保存されるという形で、
アウフヘーベンと呼ばれる思考の働きが機能していると考えられることになるのです。
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以上のように、
ヘーゲルの弁証法哲学において用いられている「アウフヘーベン」とは、具体的には、
テーゼ(正)とアンチテーゼ(反)となる二つの概念からジンテーゼ(合)へと向かう弁証法的な論理展開において用いられている概念であり、
それは、一言でいうと、
解消する・高める・保存するという三つの要素のすべてを同時に満たす思考の進め方のことを意味する概念であると考えられることになります。
そして、そういう意味において、こうした哲学的な概念としての「アウフヘーベン」の主要な意味のあり方は、
「あるものを否定すると同時に、それをより高次の段階において生かすことによって肯定側と否定側の両者の概念を統一する」ということにあると考えられることになるのです。
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次回記事:「アウフヘーベン」が日本語では「止揚」や「揚棄」として訳される理由とは?保存と廃棄という二要素への焦点の当て方の違い
前回記事:アウフヘーベンのドイツ語における三つの意味とは?「解消する」「保存する」「高める」という主要な意味とドイツ語の原義
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