アウフヘーベンのドイツ語における三つの意味とは?「解消する」「保存する」「高める」という主要な意味とドイツ語の原義
日本において「アウフヘーベン」という言葉が使われる場合、
それは一般的には、18世紀後半から19世紀初頭のドイツの哲学者であるヘーゲルが彼自身の弁証法哲学において用いている哲学的な概念のことを指してそうした言葉が用いられていると考えられることになります。
そして、ヘーゲルの弁証法において用いられているaufheben(アウフヘーベン)という概念は、一言でいうと、
「あるものを否定すると同時に、それをより高次の段階において生かして保存することによって肯定側と否定側の両者の概念を統一する」ことを意味する概念であると考えられることになるのですが、
それでは、こうしたアウフヘーベン(aufheben)という単語は、そのドイツ語自体の原義においてはどのような意味を表す言葉であると考えられ、
そのような原義となる言葉のイメージからは、さらに、具体的にどのような意味が派生していくことになると考えられることになるのでしょうか?
アウフヘーベンのドイツ語の原義における意味とそこから派生する多義的な意味
まず、aufheben(アウフヘーベン)という言葉のドイツ語における単語自体の成り立ちについてですが、
この言葉は、ドイツ語で「上方へ」を意味する分離前つづりであるauf(アオフ)と、「持ち上げる」といった意味を表す動詞heben(ヘーベン)が結びついてできた動詞であると考えられることになります。
つまり、
aufheben(アウフヘーベン)という言葉は、ドイツ語の原義としては、目の前に落ちている石などを手に取って「拾い上げる」あるいは「上方に持ち上げる」といった意味を表す単語であると考えられることになるのです。
ちなみに、詳しくは「アウフヘーベンとアオフヘーベンはどちらが正しい表記なのか?ドイツ語におけるauの発音とアウグスブルクの宗教和議」の記事で書きましたが、
上記のaufというドイツ語のカタカナ表記が「アオフ」となっていることからも分かる通り、
aufhebenというドイツ語の単語自体の発音は、「アウフヘーベン」というより、「アオフヘーベン」とした方がよりドイツ語本来の発音に近い読み方であると考えられることになるのですが、
それはともかくとして、
こうしたaufhebenという単語は、上記のような原義となる意味から派生して、「拾い上げる」、「持ち上げる」、「助け起こす」、「立ち上がる」といった意味だけではなく、
「廃止する」、「撤廃する」、「相殺する」、あるいは、「保管する」、「保存する」、さらには、「約分する」、「検挙する」といったドイツ語においても極めて多義的な意味を表す言葉として用いられていると考えられることになるのです。
アウフヘーベンのドイツ語の原義のイメージに基づく三つの主要な意味とは?
それでは、こうしたaufheben(アウフヘーベン)という言葉は、もともとの「持ち上げる」といったドイツ語の原義における意味からはかけ離れた様々な概念の寄せ集めのような言葉として成立しているのか?というと決してそういうわけではなく、
上記のaufheben(アウフヘーベン)という言葉に含まれる多義的な意味は、大きくまとめると、以下のような三つの意味に集約することができると考えられることになります。
それは、①「解消する」、②「高める」、③「保存する」という三つの意味です。
例えば、
前述した「目の前の道にある石を手に取って持ち上げる」といったaufhebenという単語のドイツ語の原義におけるイメージに基づいて考えてみると、
まず、
②の「高める」という意味については、「持ち上げる」というaufhebenの原義における意味自体が何かを上方へと持っていく、すなわち、何かをより高い所へと移動させるという意味を表しているので、
こうした意味が自然に派生してくるということは、改めて説明するまでもないと考えられることになります。
それに対して、
目の前の道に落ちている石を手に取って拾い上げるというとき、もともと石が置いてあった道の側に視点を置いてみると、それは、今までは道の上にあったはずの石が新たに取り去られてしまったということを意味することになり、
それは、今まであったものがなくなる、つまり、①に挙げた「解消される」あるいは「廃止する」、「撤廃する」といった意味へとつながることになると考えられることになります。
それに対して、
今度は拾い上げられる側の石の視点に立っていみると、その石は今までのように道端に転がったままでは、いつ誰かに蹴られたり踏みつぶされたりして、どこかへ飛んで行ってしまったり割られてしまったりしていたかもしれないところ、
人間の手によって大事に拾い上げられることによって、石自身の本来の元の状態をそのまま保つことができるようになったとも捉えることができるので、
そこからは、③に挙げた「保存する」あるいは「保管する」といった意味が新たに派生してくることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
aufheben(アウフヘーベン)という言葉は、auf(上方へ)とheben(持ち上げる)というドイツ語の単語が結合してできた動詞であり、
それは、ドイツ語の原義においては、「拾い上げる」あるいは「上方に持ち上げる」といった意味を表す単語であると考えられることになります。
そして、こうしたドイツ語の原義におけるイメージから派生してできた
「拾い上げる」、「持ち上げる」、「助け起こす」、「立ち上がる」、「廃止する」、「撤廃する」、「相殺する」、「保管する」、「保存する」、「約分する」、「検挙する」
といったaufheben(アウフヘーベン)という単語に含まれる多義的な意味は、
①「解消する」、②「高める」、③「保存する」という三つの主要な意味へと集約することができると考えられることになるのです。
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次回記事:アウフヘーベンとは何か?ヘーゲルの弁証法哲学における「アウフヘーベン」の具体的な意味とは?
前回記事:アウフヘーベンとアオフヘーベンはどちらが正しい表記なのか?ドイツ語におけるauの発音とアウグスブルクの宗教和議
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