正しい三段論法と誤った三段論法の違いとは?反例を示すことが論理的に不可能な形式と反例によって結論が覆される形式
前回の記事で書いたように、三段論法の形式は、概念の配置に基づく四つの格と命題形式の区分に基づく64通りの式との組み合わせによって、全部で256通りの格式へと分類することができると考えられることになります。
しかし、こうした三段論法の形式に則った推論であれば、どのような格式の推論においても、常に論理的に正しい推論が成立するのか?というと、必ずしもそういうわけではなく、
三段論法と呼ばれる間接推論の形式の中には、形式のみによって常に論理的に正しい結論が導き出される正しい三段論法と、そうでなはい誤った三段論法の形式が存在すると考えられることになります。
前提が真ならば結論も必然的に真となる正しい三段論法の例
まず、前回と前々回の記事で取り上げた三段論法の格と三段論法の式の定義に基づいて、
三段論法を構成する大前提・小前提・結論の内に含まれる三つの概念の配置のあり方を大概念(P)・小概念(S)・媒概念(M)として示したうえで、
大前提・小前提・結論という三つの命題それぞれにおける命題形式のあり方を、全称肯定命題(A)・特称肯定命題(I)・全称否定命題(E)・特称否定命題(O)という四通りずつの命題形式の区分によって示すとします。
すると、正しい三段論法の形式の例としては、例えば、
大前提M-P、小前提S-M、結論S-Pという形式から成る第一格の三段論法の推論であり、大前提・小前提・結論ともすべて全称肯定命題(A)で構成されている
第一格AAA式の三段論法の形式が挙げられることになり、
上記の三段論法の形式によって構成される推論の例としては、例えば、
大前提:すべての生物は死すべきものである。(すべての生物の命には限りがある)
小前提:すべての人間は生物である。
結論:すべての人間は死すべきものである。(すべての人間の命には限りがある)
という三段論法の推論が挙げられることになります。
そして、例えば、上記の推論における三つの概念のそれぞれについて、媒概念(M):「生物」は「哺乳類」へ、大概念(P):「死すべきもの」は「動物」へ、小概念(S)はそのまま「人間」というようにそれぞれ置き換えて、
大前提:すべての哺乳類は動物である。
小前提:すべての人間は哺乳類である。
結論:すべての人間は動物である。
としても、同様に論理的に正しい推論が成立することになります。
このように、上記の三段論法の形式においては、命題内の三つの概念を他のどのような概念と入れ換えても、前提となる命題が真である限り、結論となる命題も必然的に真となるので、
こうした三段論法の形式は、前提となる命題が真である限り、三段論法の形式のみによって結論が必ず真であることが決定づけられるという意味において、
正しい三段論法の形式、あるいは、妥当な三段論法の形式として位置づけることができると考えられることになるのです。
誤った三段論法の二つのパターンとは?
それに対して、誤った三段論法の形式とは、具体的にどのようなものであると考えられるのか?ということについてですが、
例えば、上記の推論の格と同じ第一格の三段論法の推論であり、大前提・小前提は全称肯定命題(A)、結論は全称否定命題(E)で構成されている
第一格AAE式の三段論法の推論の場合、
上記の三段論法の形式によって構成される推論の例としては、例えば、
大前提:すべての生物は死すべきものである。(すべての生物の命には限りがある)
小前提:すべての人間は生物である。
結論:すべての人間は死すべきものではない。(すべての人間の命には限りがない)
という推論が考えられることになりますが、
実際には、すべての人間の命には限りがあるという真逆の結論が必然的に真となるように、
こうした推論の形式は、前提が真である限り、必然的に偽である結論が導き出されるという意味において、誤った三段論法の形式であると考えられることになります。
誤った三段論法のあり方については、上記の推論の場合とは少し異なるもう一つの別のパターンの誤った推論の形式もあり、
例えば、第一格の三段論法の推論であり、大前提は特称肯定命題(I)、小前提と結論は全称肯定命題(A)で構成されている
第一格IAA式の三段論法の推論の場合、
上記の三段論法の形式によって構成される推論の例としては、例えば、
大前提:ある生物は死すべきものである。
小前提:すべての人間は生物である。
結論:すべての人間は死すべきものである。
という推論が考えられることになりますが、
この推論の結論は、前述した正しい三段論法の例として取り上げた推論の結論とまったく同じものなので、この場合、上記の三段論法によって得られる結論自体は真であると考えられることになります。
しかし、上記のものと同じ三段論法の形式を用いたうえで、媒概念(M):「生物」を「動物」へ、大概念(P):「死すべきもの」を「陸生」へ、小概念(S)「人間」を「哺乳類」へと置き換えて、
大前提:ある動物は陸生である。
小前提:すべての哺乳類は動物である。
結論:すべての哺乳類は陸生である。
とすると、実際には、哺乳類のなかには陸生ではないクジラのような水生動物もいるので、今度は、上記の三段論法によって得られる結論は偽となってしまうことになります。
このように、上記の三段論法の形式においては、前提が真であっても、命題の内に含まれる概念の内容の組み合わせによって結論の真偽が移り変わってしまうことになるので、
こうした推論の形式は、前提が真であっても、三段論法の形式のみによっては結論の真偽が定まらないという意味において、誤った三段論法の形式として位置づけることができると考えられることになるのです。
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以上のように、
正しい三段論法、あるいは、妥当な三段論法の形式とは、
前提となる命題が真である限り、三段論法の論理的な形式のみによって結論が必ず真であることが決定づけられる推論のあり方を意味するのに対して、
誤った三段論法には、
前提となる命題が真である限り、必然的に偽である結論が導き出されてしまうという矛盾する推論のあり方と、
前提が真であっても、三段論法の論理的な形式のみによっては結論の真偽が定まらない不十分な推論のあり方という、
二つの誤った推論のパターンが含まれていると考えられることになります。
別な言い方をするならば、
誤った三段論法の形式の場合は、前提が真であったとしても、論理形式自体の内に矛盾や欠陥が含まれているので、
その形式を用いた推論に対する反例が示されて結論が覆されてしまう可能性が常に残り続けるのに対して、
正しい三段論法の形式の場合は、前提が真であれば、論理的な形式のみによって結論も必然的に真となることから、
その形式を用いた推論に対する反例を示すことが論理的に不可能な完璧な三段論法の形式であるという点に、
正しい三段論法と誤った三段論法における推論のあり方の具体的な特徴の違いがあると考えられることになるのです。
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次回記事:256通りの三段論法の形式の妥当性についての具体的な検証作業の進め方とは?デカルトの方法的懐疑に基づく網羅的アプローチ
前回記事:A, I, E, Oに基づく三段論法の64通りの式の区分とは?三段論法における格と式の違い②
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