形而上学とは何か?②古代ギリシア語におけるメタピュシカの意味と文法的解釈
前回書いたように、「形而上学」という言葉自体の由来は、古代中国の書物である『易経』の中の「繋辞上伝」と呼ばれる章にでてくる「形而上なるものはこれを道といい、形而下なるものはこれを器という」という記述の内に求められることになります。
そして、こうした日本語では「形而上学」という訳語があてられている英語のメタフィジックス(metaphysics)、あるいは、ラテン語のメタフィシカ(metaphysica)という単語は、その大本の語源としては、
古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスの一連の著作に対して付されている言葉である古代ギリシア語の“ta meta ta physika“(タ・メタ・タ・ピュシカ)という言葉に由来すると考えられることになります。
それでは、こうした形而上学、すなわち、英語のメタフィジックスという概念の直接的な由来となったタ・メタ・タ・ピュシカ(ta meta ta physika)という言葉は、古代ギリシア語においては具体的にどのような意味をもった言葉であると考えられることになるのでしょうか?
今回は、こうした古代ギリシア語における文法的解釈という観点からメタピュシカ(metaphysika)という言葉の意味について考察していきたいと思います。。
古代ギリシア語における「メタピュシカ」の意味と文法的解釈
“ta meta ta physika“(タ・メタ・タ・ピュシカ)という一連の言葉を古代ギリシア語の文法に即して解釈していくと、
まず、上記の一連の言葉の内に含まれている二つのta(タ)という単語は、ギリシア語の複数中性の定冠詞にあたる単語であり、英語でいうとtheに相当する単語ということになります。
そして、残りのmeta (メタ)とphysika(ピュシカ)という単語についてですが、
詳しくは「メタとは何か?古代ギリシア語におけるmetaの多様な意味」の記事で考察したように、
前者のmeta (メタ)の単語は、ギリシア語において「~の後に」「~を超える」といった意味を表す前置詞または接頭辞にあたる単語ということになります。
それに対して、
physika(ピュシカ)という単語は、古代ギリシア語において「自然」を意味するphysis(ピュシス)という名詞から派生してできた単語であり、
古代ギリシア語においてphysika(ピュシカ)という単語は、自然について探究する学問、すなわち、「自然学」のことを意味することになります。
そして、
通常は前置詞として解釈されることになる前半のmeta(メタ)という単語の方も、頭にta(タ)という定冠詞が付されることによって名詞化する形で解釈されることになるので、
前半のta meta(タ・メタ)の部分は、後ろに適切な名詞が補われることによって、「~後の学問」あるいは「~の後の考察」といった意味を表す言葉として解釈されることになります。
つまり、以上のような文法的解釈に基づくと、
“ta meta ta physika”(タ・メタ・タ・ピュシカ)という言葉は、その一連の言葉の全体の意味としては、
「自然学(タ・ピュシカ)の後に(メタ)位置づけられる一連の考察」あるいは「自然学(タ・ピュシカ)を超越する(メタ)学問」といった意味を表す言葉として解釈することができると考えられることになるのです。
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以上のように、
形而上学と呼ばれる概念の直接的な由来となったタ・メタ・タ・ピュシカ(ta meta ta physika)という言葉は、その古代ギリシア語における意味としては、
「自然学の後に位置づけられる一連の考察」あるいは「自然学を超越する学問」といった意味を表す言葉として解釈することができると考えられることになります。
そして、
こうした古代ギリシア語におけるタ・メタ・タ・ピュシカ(ta meta ta physika)という言葉がのちに省略されて呼称されていくことによってメタピュシカ(metaphysika)と呼ばれるようになっていき、
こうした古代ギリシア語における省略形としてのmetaphysika(メタピュシカ)という言葉が直接的な語源となって、
ラテン語のmetaphysica(メタフィシカ)、ドイツ語のMetaphysik(メタフュジィーク)、フランス語のmetaphysique(メタフィズィック)、そして、英語のmetaphysics(メタフィジックス)といった単語が成立していったと考えられることになるのです。
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次回記事:マケドニアによるギリシア諸都市の征服とアリストテレスの迫害と著作の散逸、形而上学とは何か?③
前回記事:形而上学とは何か?①『易経』「繋辞上伝」における形而上と形而下の定義とその具体的な意味の解釈
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