プラトンの『国家』における四つの認識のあり方の分類、ノエーシスとディアノイアとピスティスとエイカシアの区分、認識論②
前回書いたように、プラトンの『国家』第六巻で語られている「太陽の比喩」では、
現実の世界における個々の事物から、それを根拠づけている個々のイデア、そして、さらにその大本にある善なるイデアへと至る存在の階層構造が、善のイデアを頂点とするヒエラルキー構造によって、説明されています。
そして、同じくプラトンの『国家』第六巻のそれに続く箇所で語られている「線分の比喩」においては、
人間の認識のあり方においても、「太陽の比喩」において示された存在の階層構造と同様に認識の階層構造があることが説明されていくことになります。
プラトン『国家』の「線分の比喩」における四つの認識のあり方の分類
プラトンの『国家』第六巻で語られている「線分の比喩」においては、
まず、存在における現実の事物とその背後にある真なる実在であるイデアとの区分に対応する形で、
人間の認識のあり方にも、現実の事物が存在する感性的世界(現象界)にのみとどまる認識と、真なる実在であるイデアが存在する知性的世界(イデア界)へとつながる認識という二つの認識の区分があると説明されることになります。
そしてさらに、こうした二つの認識区分のうちの一方である感性的認識の方は、
水面や鏡に映った姿や影絵といった実際の事物を伴わない映像だけの認識のあり方であるエイカシア(eikasia、映像知覚)と、
実際の事物を直接知覚しているという確信をもった通常の事物認識のあり方であるピスティス(pistis、知覚的確信)という二つの認識のあり方へと細分化され、
もう一方の知性的認識の方は、
数学や自然学といった通常の学問における論理的な推論を通した認識のあり方であるディアノイア(deanoia、間接的認識)と、
真の実在であるイデアそのものを直接把握する認識のあり方であるノエーシス(noesis、直知的認識)という二つの認識のあり方へと細分化する形で捉えられていくことになります。
例えば、
ヨットが上流から下流へと流れていくという同じ一つの情景を認識するときに、
それを水面に映る船影として見る場合や、ビデオカメラで撮った映像を後で鑑賞する場合には、それは現物を伴わない映像だけの認識、すなわちエイカシア(映像的認識)としての認識ということになりますし、
自分の目で直接現物のヨットを眺めている場合には、それは実際の事物を直接知覚しているという確信をもったピスティス(知覚的確信)と呼ばれる認識のあり方に該当することになります。
そして、
そうした事物としてのヨットををただ目で姿を追っているだけの感覚的な認識を超えて、ヨットの物理的な構造や、水流や風向からその後の船体の軌道まで予測するような認識にまで至るようになると、
それは一般的な学問における論理的な認識であるディアノイア(間接的認識)に該当する認識となると考えられることになります。
そしてさらに、そうしたヨットという存在全体を俯瞰して、その本質を一挙に把握する認識にまで至ると、
それは、最終的に、物事の背後に存在する真なる実在であるイデアそのものを直接把握するノエーシス(直知的認識)と呼ばれる認識のあり方へと到達することになると考えられることになるのです。
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以上のように、
プラトンの『国家』にでてくる「線分の比喩」においては、
人間における認識のあり方は、現実の事物のみを知覚する感性的認識と、そうした事物の背後にある真の実在であるイデアへと通じる知性的認識という二つの階層に区分されることになります。
そして、こうした二つの認識の階層のそれぞれについて、
感性的認識は、実際の事物を伴わない映像だけの認識であるエイカシア(映像知覚)と、実際の事物を直接知覚する認識であるピスティス(知覚的確信)という二つの認識の階層へ、
知性的認識は、論理的推論を通じた間接的な認識であるディアノイア(間接的認識)と、真なる実在であるイデアそのものを直接把握するノエーシス(直知的認識)という二つの認識の階層へとさらに細分化されて捉えられることによって、
人間の認識のあり方には、エイカシア(映像知覚)とピスティス(知覚的確信)、そして、ディアノイア(間接的認識)とノエーシス(直知的認識)という
全部で四段階の階層があるとされることになります。
そして、「線分の比喩」におけるその後の議論では、こうした四つの階層におけるそれぞれの認識同士の対応関係が、
四つの線分へと分割された直線の数学的な比例関係を通じて、さらに詳しく説明されていくことになるのです。
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次回記事:プラトンの「線分の比喩」における四つの認識の比例関係の図解、直接的認識と間接的認識の間の三重の比例関係、認識論③
前回記事:プラトンの「太陽の比喩」における善のイデアを頂点とするヒエラルキー構造、プラトン『国家』における認識論①
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