プラトンにおける魂の三部分説と真善美の三つのイデアの対応関係、プラトンの魂の三部分説③
前々回と前回の二回にわたって書いてきたように、プラトンの中期対話篇である『国家』と『パイドロス』において示されている魂の三部分説においては、
人間の魂は、知性的部分を頂点として、それに気概的部分と欲望的部分という残りの二つの部分が付き従うという三者の間の階層構造において成り立っているということが明らかにされています。
そして、こうしたプラトンの魂の三部分説において魂を構成する知性的部分とと気概的部分と欲望的部分という三者の関係は、
同じくプラトンの思想であるイデア論を代表する真善美の三つのイデアとの対応関係からも位置づけることが可能であると考えられることになるのです。
プラトンにおける真理と善のイデアと善美なるもの
プラトンの思想において、哲学的探究が求めるべき真理とは、すべての存在の原型となる真なる実在であるイデアについての知であり、
究極的には、そうしたイデアの世界の根源にある善なるイデアについての知を得ることこそが哲学的探究の究極の目的として位置づけられることになりますが、
こうした人間の知の探究の対象となる真理のあり方について、プラトンの対話篇の中では、善美なるもの(kalon kagathon、カロン・カガトン)という表現によって語られている箇所も存在します。
例えば、プラトン著『ソクラテスの弁明』においては、ソクラテスが語る無知の知の内実について、以下のような言葉で語られている箇所がでてきます。
私も彼も善美なるものについては何も知らないと思われるが、彼は何も知らないのに何かを知っていると思い込んでいるのに対して、私は何も知りもしないがそれを知っているとも思っていないのである。
(プラトン著『ソクラテスの弁明』、第6節)
このように、プラトンの哲学においては、人間が善く生きるために必要な知のあり方とは、善美なるものや善なるイデアについての普遍的な知であり、
そうした善美なるものや善なるイデアについての普遍的真理へと到達することこそが哲学的探究の究極の目的であると考えられることになります。
つまり、プラトンの哲学においては、
善いものは、同時に美しくもあり、善美なるものとは、すなわち、真理自体でもあるという意味において、真と善と美の三者は、互いに不可分な一体を成していると考えられることになるのです。
プラトンにおける魂の三部分説と真善美の三つのイデアの対応関係
そして、
こうしたプラトンの魂の三部分説における知性的部分と気概的部分と欲望的部分という魂の三つの区分と、哲学的探究の対象となる真と善と美という三つの普遍的な知のあり方には、
下図で示したような二重の三角形の構造から成る対応関係が存在すると解釈することができると考えられることになります。
人間の魂の内部構造を示している上記の図において、
知性的部分が知性や理性に基づいて論理的な判断を下す働きを担う部分であるのに対して、
気概的部分は、理性の判断に従って正しいことを実践しようとする意志の働きを担う部分として、
欲望的部分は、肉体や感情面における適度な快感の充足を担う部分として位置づけられることになります。
そして、
真善美という三つのイデアは、それが知の探究の対象となる存在である以上、直接的には、人間の魂における主導的な部分である知性的部分に対応する存在として位置づけられることになりますが、
それは同時に、
真理が知性や理性における論理的な判断の対象であるのに対して、善は正しいことを実践する意志の働きによって実現され、美は肉体や物質における姿形や感情の動きと深い関わりがあるという意味においては、
真のイデアは人間の魂における知性的部分に、善のイデアは気概的部分に、美のイデアは欲望的部分に対応する存在としても位置づけることが可能であると考えられることになるのです。
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以上のように、
プラトンの哲学では、「真理」と「善のイデア」と「善美なるもの」、すなわち、真と善と美の三者は、互いに不可分な一体を成す概念であると考えられることになります。
そして、人間の魂の内部構造が知性的部分と気概的部分と欲望的部分という魂の三つの区分から構成され、
その内の知性的部分には、真善美という三つのイデアが対応するというという二重の三角形の構造において、
プラトンにおける魂の三部分説と真善美の三つのイデアとの関係が成り立っていると考えられることになるのです。
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初回記事:プラトンの『国家』における魂の三部分説と国家の三つの機能との対応関係、プラトンの魂の三部分説①
前回記事:プラトンの『パイドロス』における魂の三段階の階層構造と二頭立ての馬車の比喩、プラトンの魂の三部分説②
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