真善美の三つのイデアとは何か?プラトンからカントの哲学へと至る真善美の概念と学問体系の区分

真善美とは、認識上の真理と、倫理上の、そして、審美上のという人間の精神が究極的に求める普遍的な価値のあり方を示す三つの概念であり、

こうした真善美という三つの概念は、古代ギリシアの哲学者であるプラトンの思想やその哲学の中心となる理論であるイデア論との関係から語られることが多い概念でもあります。

そして、プラトンの対話篇の中では、こうした人間の精神が探究する普遍的な価値のあり方について、「普遍的真理」や「善のイデア」、あるいは「善美なるもの」といった様々な呼び名で語られているのですが、

その一方で、プラトン自身の言葉で真と善と美という三つのイデアのあり方が並列される形で語られている箇所は実際にはほとんど存在せず、

そうした概念の明確な区分は、プラトン以降のその後のヨーロッパ哲学の流れの中で徐々に形づくられ定着していった区分でもあると考えられることになります。

それでは、こうした真と善と美という三つの概念の区分の起源は、哲学史におけるどのような思想の内に求められると考えられることになるのでしょうか?

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ヴォルフからバウムガルテンへと至る近代ドイツにおける哲学の体系化

プラトンアリストテレスといった古代ギリシアの哲学者たちの思想は、中世ヨーロッパにおいて、神学と哲学が融合した思想であるスコラ哲学の内へと継承されていき、カトリック教会の公用語であるラテン語によって文献研究が進んでくことになります。

そしてその後、

近世のドイツにおいて、こうした中世のスコラ哲学におけるラテン語の哲学用語ドイツ語の哲学概念へと置き換えられていくことになり、

それに伴って、それまでのスコラ哲学における伝統的な哲学体系なとは異なった新たな形での哲学の体系化が進められていくことになるのですが、

こうしたドイツにおける新たな哲学体系の確立は、近世ドイツの哲学者であるクリスティアン・ヴォルフChristian Wolff1679年~1754)を中心とするヴォルフ学派の手によって進められていくことになります。

ヴォルフ学派において、哲学という学問は、認識論論理学心理学、純粋な論理的知識を扱う理論哲学と、倫理や道徳といった実践的な事柄を扱う実践哲学といった様々な学問体系の区分へと細分化されていくことになるのですが、

その中でも、真善美の三つの概念区分と関わる新しい学問分野の区分としては、ヴォルフ学派の哲学者の一人であるバウムガルテンAlexander Gottlieb Baumgarten1714年~1762)によって、

美の本質や美的価値を扱う美学が、認識論に属する一つの学問分野として明確に位置づけられたことが挙げられることになります。

つまり、

こうしたヴォルフからバウムガルテンへと至る近世ドイツにおける哲学の体系化の流れの中で、

論理的知識を探究する理論哲学と、倫理や道徳を探究する実践哲学、そして、美の本質や美的価値を探究する美学という、

プラトンにおける真善美の三つのイデアに対応する三つの学問分野の概念が確立されていったと考えられることになるのです。

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カントの三批判書と真善美の三つのイデアとの関係

そして、

こうしたヴォルフ学派によって確立された哲学体系の区分は、その後のドイツの哲学者であるカントImmanuel Kant1724年~1804)における哲学体系の内にもそのまま継承されていくことになります。

カントの主著としては、『純粋理性批判』と、『実践理性批判』、そして『判断力批判』という一般的に三批判書と総称される著作の名が挙げられることになりますが、

こうした三批判書のうち、『純粋理性批判』は理性による論理的な認識のあり方の探究、すなわち真理についての探究を行っているという意味で、理論哲学に分類される書物であるのに対して、

実践理性批判』は倫理や道徳の探究を扱う実践哲学に、『判断力批判』は美的判断や趣味判断を扱うという意味で美学の区分に分類することができると考えられることになります。

つまり、カントの哲学においては、

第一批判である『純粋理性批判』において真理が、第二批判である『実践理性批判』においてが、そして、第三批判である『判断力批判』においてについての探究が行われることによって、

プラトンの哲学における真善美の三つのイデアのすべてが包括される形で哲学探究が進められていると考えられることになるのです。

そして、こうした真善美の三つのイデアと、近世ドイツにおける学問体系の区分、そして、カントにおける三批判書との間の対応関係についてまとめると、

そこには、下図で示したような三つのイデアと三つの学問体系同士の三位一体の構造が成立していると考えられることになります。

真善美の三つのイデアとカントにおける三つの学問分野の区分

・・・

以上のように、

一般的に、プラトンの哲学思想やイデア論と結びつけられることが多い真と善と美という三つの概念の区分の直接的な起源は、

18世紀のドイツの哲学者であるヴォルフバウムガルテンによって確立されていった理論哲学実践哲学(倫理学)、そして美学という三つの学問分野の区分と、

そうした近世ドイツにおける学問体系の区分を土台としたカントの哲学における『純粋理性批判』と『実践理性批判』と『判断力批判』の三部門の区分のうちに求めることができると考えられることになります。

そして、こうしたヴォルフからカントへと至る近世ドイツ哲学における学問体系の確立によって、それぞれの学問分野の対象である真と善と美という三つの概念についてもそれぞれ互いに独立した概念として捉えられるようになっていき、

それによって、こうした哲学思想の大本にあるプラトンの哲学におけるイデア論の思想についても、真善美の三つのイデアが互いに独立しながら三位一体の構造をなす思想として捉えられるようになっていったと考えられることになるのです。

・・・

関連記事:プラトンにおける魂の三部分説と真善美の三つのイデアの対応関係、プラトンの魂の三部分説③

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