時間的な遠近性に基づく未来の快楽の価値の逓減の法則、快楽計算とは何か?⑦
前回書いたように、
快楽計算を構成する第三の要素である確実性の概念とは、将来得られる予定の快楽が実際に実現する確率の高さのことを示す概念ということになります。
そして、
それに続く第四の要素である遠近性の概念についても、それは、こうした確実性の概念と大きな関わりを持つ概念であると考えられることになります。
快楽の遠近性と未来の状況の不確実性との関係
快楽の遠近性とは、一言で言うと、将来実現する予定である未来の快楽についての現在から見た時間軸上の遠近関係を示す概念ということになります。
そして、
人間の社会生活においては、明日や一週間程度先の出来事ならば、ある程度確実性の高い予定を立てることもできますが、一年後、さらには、十年後ともなると、自分がどこで何をやっているかも定かではないというように、
一般的に、現在からの時間的距離が離れれば離れるほど、予想される出来事がその通りに実現する可能性は低下していくと考えられることになります。
このような快楽と効用の遠近性の概念に基づくと、
例えば、宝くじで一億円が当たって、それを明日換金できることになっているような場合でも、その現在の当たりくじ自体には、正確には一億円と同等の価値はまだ無いと考えられることになります。
なぜならば、
明日、換金する場所にたどり着くまでに、くじをどこかに置き忘れたり、盗まれてしまったり、あるいは、寝ている間に家が火事になってくじごと焼失してしまうような可能性もゼロとは言えない以上、
そうした未来の状況の不確実性の分だけ、現在から見たときの未来の快楽の価値が目減りしてしまうと考えられることになるからです。
そして、
上記の一億円の宝くじの例で、仮に、置き忘れや盗難などの理由で明日までに何らかの形でくじが紛失してしまうリスクが0.1%程度あると考えられるとするならば、
明日換金できる予定の1億円の当たりくじの現在の時点での実際の価値は、くじが紛失する0.1%分のリスクを割合として差し引いた9990万円くらいの価値であると計算した方が適当であると考えられることになるのです。
時間的な遠近性に基づく未来の快楽の価値の逓減の法則
そして、こうした快楽計算における遠近性の観点に立つと、
現在から時間的に遠くなればなるほど、未来の快楽の価値が目減りする量は大きくなっていくことになるので、
例えば、
十年後に1000万円がもらえるとしても、それは、現在の500万円ほどの価値もないと考えることもできるかもしれません。
現在500万円があれば、それを資金運用や投資などで増やすことができる可能性もあれば、自分の能力を活かす事業を起こすための資本金や、スキルアップのための学業や資格取得のための資金などに活用することもできるわけですが、
それが十年後の1000万円では、その十年間の間に資金を有効活用できる機会が大きく失われてしまうと考えられることになります。
さらには、十年といった長期のスパンにおいては、十年後に1000万円を受け取るという契約を交わした当人自体が不慮の事故や病気などで死んでしまい、約束された資金を受け取ること自体が不可能になってしまうこともあり得るので、
このようなケースでは、十年後にもらえるはずだった1000万円は、当人にとってはまったくの無価値に等しいお金ということになります。
快楽計算においてはお金はそれ自体で価値があるわけではなく、それが個人の快楽や効用に活用できる限りにおいて有用とされることになるので、
上記のような場合の十年後の1000万円の価値は、快楽計算では半額の500万円どころか、端的に0円と見積もられてしまうことになるのです。
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以上のように、
快楽の遠近性の概念に基づくと、
一般的に、未来に実現する予定の快楽については、現在から見た時間軸上の距離が遠くなるのに比例して、予定された未来の快楽が実現する確率が低くなっていくことになります。
そして、
そうした時間的な遠近性の概念に基づく未来の快楽の実現確率の逓減(ていげん、数量が徐々に減ること)の法則に従って、
快楽計算においては、現在から近い未来の快楽ほど価値が高く、遠い未来の快楽ほどその価値が低く見積もられることになると考えられることになるのです。
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そして、詳しくは次回考えるように、
こうした快楽計算における未来の快楽の価値の逓減の法則に基づくと、
例えば、朝三暮四といった言葉についても、それが現実世界においては、故事で言われているような教訓のままには成立しているとは必ずしも言えないと考えられることになるのです。
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次回記事:朝三暮四の故事の教訓が快楽計算において成立しない理由とは?快楽計算とは何か?⑧
前回記事:快楽の確実性と予期の快楽の関係と快楽主義と悲観主義の両立、快楽計算とは何か?⑥
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