マスクの着用が飛沫感染の予防に効果的である三つの理由
ウイルスを病原体とする感染症の予防のために、マスクの着用をすることが効果的であるかどうかという議論については、医療の専門家の間でもしばしば見解が分かれるところがあるが、
原理的な観点から見た場合、少なくとも、インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどといった飛沫感染を主な感染経路とする呼吸器系のウイルスに対する感染予防においては、
マスクの着用は、それが衛生的に正しく用いられる限りにおいて、感染症の予防に十分な効果を発揮することができると考えられる。
一般的な不織布のマスクでもウイルスを含む飛沫粒子を捕獲することができる理由
ウイルスに対する感染対策においてマスクの着用の効果を否定する意見のなかで、最も有力な主張の一つとしては、
マスクの繊維の網目の大きさはウイルスの粒子よりも大きいため、ウイルスはマスクによって防護することができずに通り抜けてしまうという主張が挙げられる。
実際、市販されている一般的な不織布のマスクは、だいたい1~3マイクロメートルくらいの網目の大きさの不織布が重ねられた多層構造になっているのに対して、
インフルエンザウイルスやコロナウイルスといった一般的な呼吸器系のウイルスの大きさはだいたい0.1~0.3マイクロメートルくらいとされているので、
単純に考えれば、単体としてのウイルス粒子は、マスクの網目を通過することができると考えられることになる。
しかし、
こうしたインフルエンザウイルスやコロナウイルスといった呼吸器系のウイルスの主要な感染経路となる飛沫感染においては、
咳やくしゃみによって飛び散る直径5マイクロメートル以上の大きさを保った状態にある水分を含んだ体液の粒子である飛沫粒子によって感染が広がっていくことになるため、
一般的な不織布のマスクによっても正面から飛来したウイルスを含む飛沫粒子を捕獲することは十分に可能であると考えられるのである。
ウイルスを含む飛沫によって汚染された手指を介した接触感染の防止
また、こうした飛沫感染に対するマスクの予防効果としては、
ウイルスを含む飛沫が付着した物に触れたのち、そうした飛沫によって汚染された手や指で自分の口や鼻を触ってしまうことによる飛沫を介した接触感染を防ぐことができるといった点も挙げられる。
人間は自分でも知らないうちについつい自分の口元に手を持っていく、指で鼻をかく、頬杖をつくといった形で首から上の部位に手や指で触れてしまうことが多くあるが、
そうして無意識のうちに自分の目や口や鼻を触ってしまうことになる手や指が、手すりやドアノブあるいは電車のつり革といった公共物などに付着しているウイルスを含む飛沫によって汚染されていればすぐに感染が成立してしまうことになる。
しかし、
もしも、そうした無意識のうちにウイルスに汚染された手や指を自分の顔の近くに持っていった際に、マスクを着用していれば、その汚染された手や指が直接触れるのは口や鼻といった感染部位ではなくマスクの表面ということになるので、
少なくとも、その時点での感染の成立は避けられることになるのである。
のどや鼻の粘膜を保護する保湿効果によるウイルスの感染率の低下
そして、さらにもう一つのマスクの効用としては、
のどや鼻の粘膜を保護する保湿効果によって飛沫感染を引き起こすようなタイプのウイルスに対する免疫力が向上するという点も挙げられる。
飛沫感染を引き起こす一般的な呼吸器系ウイルスは、インフルエンザや風邪などのように冬の乾燥した時期に流行するウイルスが多く、
これらのウイルスは、のどや鼻などの感染部位が乾燥や低温などによってダメージを受けている時により感染が成立しやすくなると考えられる。
それに対して、
マスクを着用していると、乾燥した冷たい外気が遮断されることによって、自分の呼気に含まれる水蒸気による保温と保湿の効果が得られることになるため、
それによって、ウイルスの感染が成立しにくい状況が自然に整えられることになると考えられるのである。
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以上のように、
マスクをつける時には鼻やあごが外に出ないように顔にぴったりフィットするように着用し、基本的に汚染されたマスクの再着用は行わず、
マスクを外した後はそれとセットで石けんでの手洗いまたはアルコール消毒を行うことによって手指衛生を徹底するといった衛生的で正しいマスクの使い方がきちんと実行されていることを前提とした場合、
一言でまとめると、
①前方から飛来した飛沫が直接そのまま口や鼻の中に入るのを防ぐことによって体内に侵入するウイルスの量を減らす効果
②ウイルスに汚染された手指で無意識のうちに自分の口や鼻を触ってしまうことを防ぐことによって、接触感染の機会を減らす効果
③のどや鼻の粘膜を保護する保湿効果によって体内に侵入したウイルスに対抗する水際での免疫力を向上させる効果
という三つの効果があるという点において、
飛沫感染を中心とする感染経路によって感染を広げていくインフルエンザウイルスやコロナウイルスといったウイルスに対する感染予防においてマスクの着用は十分に効果的であると考えられることになるのである。
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次回記事:ガーゼマスクと不織布マスクの網目の大きさと構造の違いとは?ウイルスの感染拡大の予防対策における両者の効用の違い
前回記事:エアロゾル感染は空気感染と飛沫感染のどちらに近い感染形態なのか?広い意味での空気感染に含まれる中間的な第三の感染形態
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