バルバロイの語源と由来とは?古代ギリシア語のオノマトペとベルベル人との関係
前回の記事で書いたように、古代ギリシア人たちはギリシア語を話す自分たちと同じ民族のことを意味する総称としてヘレネスという言葉を用いていたのに対して、
自分たちとは異なる言語を話す異民族や異邦人のことを意味する総称としてバルバロイという言葉を用いていたと考えられることになるのですが、
それでは、こうした異民族や異邦人のことを意味するバルバロイという言葉は、古代ギリシア語における語源となる意味においては具体的にどのような意味を表す言葉であったと考えられ、
そうしたバルバロイという古代ギリシア語からは現在の時代へと至るまでの間に具体的にどのような言葉が派生していくことになっていったと考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシア語におけるバルバロイの語源とオノマトペ
そうすると、まず、
こうしたバルバロイ(βάρβαροι)という言葉は、古代ギリシア語において、「異国の」「外国の」あるいは「粗野な」「野蛮な」といった意味を表す形容詞にあたるバルバロス(βάρβαρος)という単語の複数形にあたる言葉であり、
もともと、こうしたバルバロス(βάρβαρος)という言葉は、ギリシア人から見て自分たちには理解することができない言葉を話す異国の人々の様子を表したオノマトペすなわち擬音語にあたる言葉であったと考えられることになります。
つまり、
古代ギリシアの人々は、自分たちが話すギリシア語とは異なる言語を話す「訳の分からない言葉を話す人々」あるいは「意味の不明な聞きづらい言葉を話す人々」といった意味を念頭に置いて、
こうしたバルバロス(βάρβαρος)あるいはその複数形にあたるバルバロイ(βάρβαροι)という言葉を用いていたと考えられることになるのです。
英語におけるバーバリアンと歴史用語としてのベルベル人の由来
そして、
こうした古代ギリシアにおけるバルバロイ(βάρβαροι)という言葉からは、古代から現代へと至るまでの間に様々な言葉が派生していくことになり、
例えば、
古代ギリシア人たちの後にヨーロッパの古典時代における主役の座につくこととなった古代ローマ人たちは、
ギリシア人とその文化を継承した自分たち以外の人々、すなわち、ギリシア人とローマ人以外の異国の人々あるいは野蛮人や未開の人々ことを指す言葉として、
男性の外国人や野蛮人のことを意味する言葉としてはbarbarus(バルバルス)、
女性の外国人や野蛮人のことを意味する言葉としてはbarbara(バルバラ)という言葉を用いていくことになります。
そして、
こうしたギリシア語におけるバルバロイ(βάρβαροι)、あるいは、ラテン語におけるbarbarus(バルバルス)といった言葉が直接的な語源となることによって、
現代の英語においても「野蛮人」や「未開人」あるいは「無教養な人」といった意味を表す名詞としてbarbarian(バーバリアン)という言葉が用いられることになっていったと考えられることになるのですが、
その一方で、
こうしたギリシア語におけるバルバロイ(βάρβαροι)という言葉からは、
歴史的な用語としては、ベルベル人(Berbers)と呼ばれる北アフリカの西方地域に住む先住民族たちのことを意味する言葉も派生していくことになっていったと考えられ、
古代ローマ人たちは、
ギリシア人やローマ人から見て、彼らの勢力圏であった地中海の周辺領域の内に位置していながら彼らとは異なる文化的な独自性を維持するマグレブと呼ばれる北アフリカの西方地域に住む先住民族たちのことを指して、
こうしたギリシア語におけるバルバロイ(βάρβαροι)という言葉を語源とするベルベル人(Berbers)という呼称を用いていくことになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:アカイア人、イオニア人、アイオリス人、ドーリア人のギリシア神話における由来とは?
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