フランケンシュタインと錬金術と人造人間の関係とは?中世の錬金術と現代の科学の融合による二つの側面を持つ怪物の創造
前回の記事で書いたように、フランケンシュタインの怪物というと、現代では、人造人間を創造するという野望に取り憑かれた狂気の博士によってつぎはぎの死体から造り出された理性を持たない凶暴な怪物といったイメージが強いと考えられることになりますが、
その一方で、こうしたフランケンシュタインの怪物のイメージの由来となった19世紀のイギリスの女流作家であったメアリー・シェリーによって書かれた『フランケンシュタイン』という同じ題名の原作の小説のなかでは、
そうした現代における理性を持たない凶暴な怪物としてのフランケンシュタインの怪物のイメージとは対照的に、教養と人間性とを兼ね備えた名もなき怪物としての醜い人造人間の姿が描かれていると考えられることになります。
そして、
こうした原作の小説において登場する教養と理性を持つがゆえに自らの存在をめぐって深く思い悩んでいくことになるという名もなき怪物の姿は、
中世の時代における錬金術の系譜や、そういった錬金術の秘術によって生み出されていくとされているホムンクルスと呼ばれる人造人間の存在とも深い関わりがあると考えられることになります。
中世の錬金術と現代の科学の融合によるフランケンシュタインの怪物の創造
そうすると、まず、
こうした現代におけるフランケンシュタインの怪物のイメージの由来となった原作の小説のなかでは、
この物語の主人公にして怪物の創造者となった人物であるヴィクター・フランケンシュタインは、
中世の偉大な錬金術師であったアグリッパやパラケルススたちの人造人間の錬成へとつながる神秘思想にも触れたのちに、
ドイツの名門大学であったインゴルシュタット大学において自然科学を学んでいくなかで、人工的な生命体を創造する秘術の研究へと没頭していくことになります。
そして、その後、
現代ではフランケンシュタインの怪物として知られているこの怪物は、ヴィクター・フランケンシュタインがそれまでに研究してきた錬金術と自然科学という二つの学問の系譜が土台となることによって、
言わば、そうした中世の錬金術と現代の科学とが融合された新たなる学問の集大成によって創造されていくことになったと考えられることになるのです。
人造人間ホムンクルスにおける哲学の子と死と腐敗の不浄の者としての二つの側面
そして、
こうしたフランケンシュタインの怪物の創造において用いられたと考えられる秘術の研究の土台となったと考えられる錬金術の分野においては、
前述したアグリッパやパラケルススといった15~16世紀ごろに活躍した錬金術の大家たちの手によって、ホムンクルスと呼ばれる人造人間の錬成が試みられてきたと考えられることになります。
そして、
こうした錬金術の秘術によって生成される人工的な生命体としてのホムンクルスは、肉体ではなく知性によって生み出される新たな生命であるという意味で哲学の子と呼ばれることもあるように、
生まれながらにして神秘的な知性を持つことによって古今東西のあらゆる知識を学ばずにして身につけているとされる賢者のような存在としても位置づけられていくことになるのですが、
それと同時に、パラケルススの著作のなかでは、
こうした人造人間としてのホムンクルスの錬成は、物質の蒸留を行う際に用いられるガラス製の器具であるレトルトの容器の内部に入れられた単独の生殖細胞が腐敗していくことによって行われるとも書かれているように、
それは細胞が腐敗していく過程において生じていくことになる悪臭を放つ不浄の者としての側面をもあわせ持っていると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
フランケンシュタインの原作の小説のなかで新たに造り出されていくことになる教養と理性を持つ醜悪な姿をした人造人間の怪物の存在の内には、
こうした中世の錬金術において錬成が試みられてきたとされているホムンクルスと呼ばれる人造人間が持っている哲学の子としての賢者の性質と、死と腐敗の不浄の者としての性質という両方の側面が描かれているとも考えられることになるのです。
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次回記事:フランケンシュタインの原型となるギリシア神話の二つの物語とは?①プロメテウスによる人類の創造と人造人間の怪物との関係
前回記事:フランケンシュタインの原作の小説と現代における怪物のイメージの違いとは?教養と人間性を持つ名もなき怪物の姿
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