ヒュロスとエケモスの一騎打ちとヘラクレイダイの帰還の時を告げる謎めく神託の言葉、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語③
前回書いたように、長男であったヒュロスを筆頭とするヘラクレスの四人の息子たちは、エウリュステウスが率いるミケーネの大軍を打ち破ったのち、その勢いを駆ってペロポネソス半島全土を征服していくことになるのですが、
その後、彼らが統治することになったペロポネソスの地においては、疫病が蔓延していくことになったため、その理由を知るためにデルポイの神殿への使者を立てることになります。
そして、使者がもたらした神託の言葉によって、この疫病の原因が彼らの父であるヘラクレスが生前に犯した罪の穢れを負う自分たち自身にあることを知ったヘラクレスの子孫のことを意味するヘラクレイダイにあたるヒュロスたちは、
せっかく手にしたペロポネソスの地を放棄して、アテナイに近いマラトンの地へと退き、この地で、再びペロポネソスの地へと帰還することが許されることになる神々によって定められた時が訪れるのを待ち続けていくことになります。
ヘラクレイダイのペロポネソスの地への帰還の時を告げる謎めいたデルポイの神託の言葉
そして、その後、
父であるヘラクレスの遺言を守って、オイカリアの王女であったイオレーを妻としたヒュロスのもとには、クレオダイオスという名の息子が誕生することになるのですが、
そうした自分の新しい家族を連れて自らの父であるヘラクレスが暮らしたペロポネソスの地へと帰還する機会をうかがい続けていたヒュロスは、
自らの足で直接、デルポイのアポロン神殿へと赴いたうえで、この地でついに、ヘラクレスの子孫たちは三度目の収穫を待った後にペロポネソスの地へと帰還することになるだろうという神託の言葉を授かることになります。
そして、
こうしたデルポイの神託の言葉を聞いたヒュロスは、彼が聞いた神託の言葉の通り、マラトンの地でさらに三年にわたって、大地に育つ作物が三度実って収穫の時を迎えるのを待ったうえで、
満を持して軍備を整えると、彼につき従う東方のドーリア人たちの軍勢を引き連れて、再びペロポネソスの地へと侵攻していくことになるのです。
ヘラクレスの息子ヒュロスのペロポネソス半島への侵攻とテゲアの王エケモスとの一騎打ち
そして、この時、
ペロポネソス半島の諸都市をまとめる盟主の立場にあったミケーネの王位は、エウリュステウスがヒュロスたちとの戦いに敗れて死んだ後に、アトレウスという名の人物によって引き継がれていて、
彼は、ペロポネソス半島の名前の由来にもなった英雄ペロプスの息子にあたる人物でもあったのですが、
そうしたミケーネの王アトレウスが率いるペロポネソスの軍勢と、ヘラクレスの息子にあたるヒュロスが率いるヘラクレイダイの軍勢は、ペロポネソス半島とギリシア本土とをつなぐコリントス地峡において対峙することになります。
そして、
神託の言葉が自らの勝利を告げていることを確信していたヒュロスは、その場で、ペロポネソスの軍勢を率いる将であったアトレウスに対して、両軍を代表する武将による一騎打ちによって一挙に勝敗を決することを申し出ることになり、
この申し出を受けたペロポネソスの陣営からは、ペロポネソスの半島の中央部にあたるアルカディアに位置するテゲアの王であったエケモスが自ら志願してヒュロスとの一騎打ちへと赴いていくことになります。
しかし、
そうした神託の言葉を信じるヒュロスの思いも虚しく、一騎打ちがはじまると、彼はペロポネソス側の武将であったエケモスの剣によってあっけなく切り殺されてしまい、
大将を失ってしまったヘラクレイダイの軍勢は、彼らにつき従っていたドーリア人たちと共に、そのまま一戦も交えることなく撤退してしまうことによって、
彼らがペロポネソスの半島へと帰還するまでの道のりはさらに遠のいて行ってしまうことになるのです。
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次回記事:アリストマコスの三人の息子が解き明かす神託の真意と父と子と孫の三代の帰還への夢、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語④
前回記事:ヘラクレスの息子の代でのペロポネソス半島の征服と疫病の理由を告げる神託の言葉、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語②
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