イクスースとは何か?②新約聖書の「人間をとる漁師」の記述とイエスの最初の弟子にして初代教皇となった使徒ペトロとの関係
前回の記事で書いたように、古代ギリシア語においてイクスースあるいはイクトゥスと発音されることになる本来は「魚」や「うお座」のことを意味するΙΧΘΥΣという言葉は、
「神の子にして救い主なるイエス・キリスト」といった意味を表すことになるἸησοῦς Χριστός Θεοῦ Yἱός Σωτήρ(イエスース・クリストス・セウー・フイオス・ソーテル)というイエス・キリストの尊称にあたる五つの単語の頭文字をつなげていくことによって形づくられることになる単語であることから、
初期のキリスト教の信徒たちの間において、キリスト教やイエス・キリストのことを象徴する一種の宗教的な暗号のようなものとして用いられていたと考えられることになるのですが、
こうした古代ギリシア語におけるΙΧΘΥΣ(イクスース)という言葉によって指し示されることになる魚の形のシンボルが、
2~3世紀ごろの初期キリスト教の時代においてキリスト教の象徴として重視されていくことになっていった理由については、さらに、新約聖書における具体的な記述のあり方からも説明していくことができると考えられることになります。
新約聖書における「人間をとる漁師」の記述と使徒ペトロとの関係
キリスト教の聖典にあたる新約聖書の記述なかでは、しばしば、魚のことを題材とした説話や寓話のようなものが語られていくことになるのですが、
そのなかでも、有名な話のうちの一つとしては、マルコによる福音書の以下のような記述のなかで語られるイエスの言葉が挙げられることになると考えられることになります。
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イエスは、ガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、シモンとシモンの兄弟アンデレが湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師だった。
イエスは、「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。二人はすぐに網を捨てて従った。
(新約聖書「マルコによる福音書」1章16~18節)
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上記のマルコによる福音書の記述においては、
荒野での四十日間の修行と断食、そして、悪魔からの誘惑といった大いなる試練と苦難を乗り越えて、聖霊によって導かれて神の教えを世に知らしめていく伝道活動へと赴いていくことになったイエスが、ガリラヤ湖のほとりにおいて、
彼の最初の弟子となるシモンとアンデレという名の二人の漁師と出会い、彼らを魚をとる漁師から「人間をとる漁師」、すなわち、神の教えによって人々を導く伝道者へと変えていく場面が描かれていると考えられることになります。
そして、
こうした上記のマルコによる福音書の記述において記されているシモンとは、シモン・ペトロ、
すなわち、イエスの死後に迫害を受けながらローマ帝国内において広く伝道活動を行っていくことによって初期キリスト教における教会の礎を築き、
カトリック教会においては初代ローマ教皇として位置づけられている使徒ペトロのことを指していると考えられることになるですが、
そういった意味では、
冒頭で述べた2~3世紀ごろの初期キリスト教の時代においてキリスト教の象徴として用いられていた魚の形をしたシンボルのイメージは、
魚をとる漁師として生まれながら、のちにイエス・キリストによって人間をとる漁師へとなるように導かれていき、
自分自身の残りの人生のすべてをキリスト教の教えを世界中の人々へと広めていく伝道活動へと捧げたイエス・キリストの最初の弟子にして初代教皇にもあたる使徒ペトロとも非常に関わりの深いシンボルとなっていると考えられることになるのです。
イクスースと呼ばれる魚の形のイメージがキリスト教のシンボルとなった二重の理由
そして、以上のように、
こうした古代ギリシア語におけるΙΧΘΥΣ(イクスース)という言葉によって指し示されている二本の弧を描く線の組み合わせとして描かれる魚の形をしたシンボルのイメージは、
それが「神の子にして救い主なるイエス・キリスト」というイエス・キリストの尊称のことを意味する言葉であると同時に、
イエス・キリストの最初の弟子にして初代ローマ教皇としても位置づけられているかつては魚をとる漁師であった使徒ペトロとの関わりも深いイメージにもあたるという二重の意味において、
そうしたイクスースと呼ばれる魚の形のイメージが初期キリスト教の時代の信徒たちの間において彼ら自身が信仰しているキリスト教のシンボルとして広く受け入れられていくようになっていったと考えらえることになるのです。
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次回記事:魚の形がキリスト教のシンボルとなった三つの理由とは?新約聖書の記述と西洋占星術と古代ギリシア語に基づく三つの説明
前回記事:イクスースとは何か?①古代ギリシア語におけるΙΧΘΥΣの意味とイエス・キリストとの関係
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