キリスト教におけるノベナの儀式の由来と古代ローマにおける9を神聖な数とする死者の弔いの儀式との関係
前回の記事で書いたように、ラテン語において「数字の9」のことを意味するnovem(ノウェム)という単語に由来する言葉としては、英語で11月を意味するNovember(ノーベンバー)という単語のほかに、
Novena(ノベナ)と呼ばれるカトリック教会などで広く行われてきたキリスト教における9日間にわたって行われる祈りの儀式のことを意味する言葉が挙げられることになるのですが、
こうしたNovena(ノベナ)と呼ばれるキリスト教における9日間におよぶ祈りの儀式は、キリスト教の聖典である新約聖書においても記述がなされているイエスの昇天とその9日後の聖霊の降臨を起源とする祈りの儀式として位置づけられていると同時に、
それは、古代ローマにおける死者の弔いの慣習とも深い関わりを持つ儀式であるとも考えられることになります。
イエスの昇天から聖霊降臨日までの期間を起源とするキリスト教におけるノベナの儀式の由来
新約聖書の使徒言行録などにおける記述においては、
イエスは十字架の死から3日後に復活したのち、弟子たちに40日間にわたって神の国についての教えを語り伝えていったのち、
自分のことを信じて祈り続ける彼らのもとに、やがて聖霊が降り立って奇跡の力を授けることになると語ってから天へと昇っていくことになります。
そして、その後のカトリック教会における伝承においては、
こうしたイエスの昇天から、その後、彼らのもとに聖霊が降臨するまでの期間、イエスの十二人の使徒たちは聖母マリアと共に、9日間にわたって祈り続けていたと語り伝えられているのですが、
キリスト教においては、こうしたイエスの昇天から聖霊降臨日までの期間であったラテン語においてnovena(ノベナ)と呼ばれる9日間という期間を聖なる日数として捉えたうえで、
教会の祝祭の前後の期間や、さらには、病を癒す奇跡の祈願や罪の償い、死者の弔いなどのために行われる祈祷などにおいても、こうしたNovena(ノベナ)と呼ばれる9日間にわたって連続して執り行われていく祈りの儀式が営まれていくようになっていったと考えられることになるのです。
古代ローマにおける9を神聖な数とする死者の弔いの儀式
また、その一方で、
こうしたNovena(ノベナ)、すなわち、ラテン語における9日間のことを意味する期間のことを聖なる日数として特別な儀式を行うという慣習のあり方は、キリスト教が普及していく以前の古代ローマにおける葬儀の慣習においても同様の儀式のあり方を見いだしていくことができると考えられることになります。
もともと、古代ローマにおいては、
自分が愛する親しい人が亡くなった時に、その人の死を弔うために、9日間にわたって喪に服したのち、10日目に盛大な宴を開くことによって、故人の魂が天国へと還っていったことを祝うという習慣があったと考えられることになるのですが、
そういった意味では、
こうした古代ローマにおける死者の弔いの儀式として用いられていた9という神聖な数字が、キリスト教においては、イエスが昇天してから祈り続ける弟子たちのもとに聖霊が降臨するまでの日数として位置づけられるようになっていったことから、
キリスト教においても、死者の弔いや教会の祝祭の前後の期間などにおいて、こうしたNovena(ノベナ)と呼ばれる9日間にわたって連続して祈祷を行う儀式が執り行われていくという習慣が定着していくようになっていったとも考えられることになるのです。
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次回記事:イエスは金曜日に死んでから三日後に復活したのに復活祭が日曜日に行われる理由とは?数え年の日数の数え方に基づく解釈
前回記事:英語で11月を意味するNovemberの由来とは?ラテン語において第9の月を意味する言葉の語源と皇妃ファウスティナの命月
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