裸子植物なのに風媒花ではなく虫媒花に分類される植物とは?ソテツにおける風媒と虫媒の両立と害虫であるゾウムシとの関係
以前に「被子植物と裸子植物の違い」の記事などにおいても詳しく考察したように、被子植物と裸子植物と呼ばれる二つの植物の種族を区別する具体的な特徴のうちの一つとして、
被子植物の花の多くは、昆虫の媒介によって受粉を行う虫媒花や、鳥類の媒介によって受粉を行う鳥媒花に分類されるのに対して、
裸子植物の花のほとんどは、風によって花粉が運ばれていくことによって受粉を行う風媒花に分類されるといった点が挙げられることになるのですが、
そうした裸子植物に分類される植物の種類の中にも、極めて数の少ない例外的なケースではあるもののソテツやマオウやグネツムなどといった虫媒花に分類される植物の種族も存在すると考えられることなります。
ソテツにおける風媒と虫媒の両立と害虫であるゾウムシとの関係
こうしたソテツ(蘇鉄)やマオウ(麻黄)やグネツムといった植物の種族はすべて、裸子植物のなかでも主に熱帯地域や乾燥地帯などに生育する低木の常緑樹に分類される植物であり、
例えば、
ソテツの場合は、長さ50センチメートルにもおよぶ長細い卵型の形状をした大きな雄花が幹の頂上部分に咲くことになり、そうした幹の頂上に咲く巨大な雄花から大量の花粉を放出することによって風の力を利用した風媒によっても花粉の受粉を行っていると考えられることになります。
しかし、その一方で、
そうしたソテツの巨大な雄花の中に入っている大量の花粉は、ゾウムシなどのカブトムシやクワガタムシなどと同じ甲虫類に分類される昆虫のエサになっているとも考えられていて、
ゾウムシなどの甲虫が花粉を食べる際に、そうした花粉の一部が体にも付着することによって、その後、これらの甲虫が木から木へと移動していく際に、ソテツの雄花が位置する木の頂上部分からそれよりも下に位置する雌花へと甲虫の体部に付着した花粉がこぼれ落ちていくことによって、
昆虫を媒介とした虫媒によっても花粉の受粉を行われていくことになると考えられることになります。
ちなみに、
こうしたゾウムシと呼ばれる甲虫は、ソテツの雄花に含まれる花粉だけではなく、葉っぱや茎などといった植物体全体を食い荒らしていってしまうことになるため、ソテツを含めた様々な樹木や農作物にとって食害をもたらす害虫としても位置づけられることになるのですが、
そういった意味では、
こうしたソテツとゾウムシの関係は、ソテツにとってゾウムシなどの甲虫は、自分の体を食い荒らす天敵であると同時に、木から木へと花粉を運んで行ってくれることによって子孫の繁栄をもたらしている有益な共生相手でもあるという複雑な関係性のうちに位置づけられることになると考えられることになるのです。
マオウとグネツムにおける胚珠の構造と植物の進化の歴史における裸子植物と虫媒花の位置づけ
また、もう一方のマオウやグネツムといった植物の種族の場合は、
これらの植物は、裸子植物に分類される植物であるにもかかわらず、雌花の内部において胚珠の外壁が硬化したうえで、胚珠全体が円筒状の花被によって覆われた構造をしていて、
一般的な被子植物などの場合と同様に、昆虫を媒介とする虫媒によっても花粉の受粉が行われていくことになると考えられることになります。
ちなみに、
植物の進化の歴史においては、
海において水中生活を営んでいた原始的な構造をした植物の種族にあたる藻類から陸地へと上陸して陸生植物へと進化した植物たちは、
その後、コケ植物のような比較的単純な形態から維管束植物と呼ばれる複雑な体組織の構造を持った高等植物へと進化していくことになるのですが、
さらにその後、
こうした維管束植物に分類されることになるシダ植物から裸子植物が分かれ出ていくことになり、そこからさらに、
胚珠がむき出しの状態にある裸子植物の一部が、胚珠が子房によって保護されている被子植物へと進化していくことになったか、
あるいは、シダ植物から裸子植物が分かれ出ていったのち、それよりだいぶ後の時代になって、裸子植物の祖先とはまったく別のシダ植物の系統から新たに被子植物が分かれ出ていくことになったと考えられているのですが、
つまり、そういった意味では、
こうしたソテツやマオウやグネツムなどといった裸子植物に分類されているのに被子植物と同じように昆虫を媒介として花粉の受粉を行う虫媒花に分類されることになる植物の種族たちは、
本来は裸子植物よりも進化した植物の種族にあたる被子植物における特有の受粉形態であるはずの虫媒花というより高度で複雑な受粉形態のあり方を独自の進化の歩みによって獲得していくことになった特殊な植物の種族として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:被子植物のなかで風媒花に分類される代表的な植物の種類とは?イネ科に代表される被子植物の虫媒花から風媒花への再進化
前回記事:虫媒花の昆虫の種類に基づく五つの区分とは?ハチ媒とチョウ媒とガ媒とハエ媒と甲虫媒に分類される代表的な植物の種類
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